冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
「カレー?」
柾さんがきょとんとして目を瞬かせる。私はこくんと頷いた。
姉が死んだ日以来、私は一度もカレーを作った事がない。どうしてもあの日が思い浮かんでしまうからだ。
「でも、お姉ちゃんはカレーが得意料理だったんです。よく一緒に食べて……もっと楽しい思い出だっていっぱいあった。だからあの味を忘れないうちに作って、それで、柾さんと食べたら、もう一個良い思い出が増えて、いいかなと」
私の提案に、彼の顔に気遣わしげな翳がかかった。
「……ああ、もちろんだ」
しんみりと柾さんが応じる。それを振り払うように、私は告げた。
「ちなみに、良い思い出はいくつ増えてもいいですからね」
「はっ……⁉︎」
柾さんが目を丸くする。
それを目の端に捉えながら、私は勢いよく椅子を立って「ではそういうことなので、行ってきます!」と玄関の方へ逃げ出した。
「こら、待て!」
無理だった。あっという間に柾さんの長い腕にとらわれ、深い口づけを受ける。
腰が抜けそうになってしがみつくと、ますます強く体を引き寄せられ、交わる吐息が熱を帯びた。
繰り返されるキスに私が何も考えられなくなった頃、柾さんは名残惜しげに私を解放した。
くらくらしながら見上げると、こちらを愛おしげに眺める美しいかんばせを直視してしまいウッと呻く。
彼は運命の番になってフェロモンを放つ事はなくなったというのに、何か私にだけ効く特別な色気を持ち続けている気がする。
柾さんの指が、私の唇をゆっくりなぞる。
秘密を囁くように、甘やかな声で呟いた。
「……そういうことなら、覚悟しておけ」
私はくしゃりと笑う。たぶん、私はカレーを作れるようになるだろう。
〈了〉
柾さんがきょとんとして目を瞬かせる。私はこくんと頷いた。
姉が死んだ日以来、私は一度もカレーを作った事がない。どうしてもあの日が思い浮かんでしまうからだ。
「でも、お姉ちゃんはカレーが得意料理だったんです。よく一緒に食べて……もっと楽しい思い出だっていっぱいあった。だからあの味を忘れないうちに作って、それで、柾さんと食べたら、もう一個良い思い出が増えて、いいかなと」
私の提案に、彼の顔に気遣わしげな翳がかかった。
「……ああ、もちろんだ」
しんみりと柾さんが応じる。それを振り払うように、私は告げた。
「ちなみに、良い思い出はいくつ増えてもいいですからね」
「はっ……⁉︎」
柾さんが目を丸くする。
それを目の端に捉えながら、私は勢いよく椅子を立って「ではそういうことなので、行ってきます!」と玄関の方へ逃げ出した。
「こら、待て!」
無理だった。あっという間に柾さんの長い腕にとらわれ、深い口づけを受ける。
腰が抜けそうになってしがみつくと、ますます強く体を引き寄せられ、交わる吐息が熱を帯びた。
繰り返されるキスに私が何も考えられなくなった頃、柾さんは名残惜しげに私を解放した。
くらくらしながら見上げると、こちらを愛おしげに眺める美しいかんばせを直視してしまいウッと呻く。
彼は運命の番になってフェロモンを放つ事はなくなったというのに、何か私にだけ効く特別な色気を持ち続けている気がする。
柾さんの指が、私の唇をゆっくりなぞる。
秘密を囁くように、甘やかな声で呟いた。
「……そういうことなら、覚悟しておけ」
私はくしゃりと笑う。たぶん、私はカレーを作れるようになるだろう。
〈了〉