妖しく微笑むヴァンパイア



 だけど、そんな想いを抱くサエを璃斗が連れ出して、中庭を去っていった。
 その光景を見せられて、由良の中では初めての感情が湧き出てくる。



(……っ、嫉妬だ)



 身勝手な感情であることはわかっているのに、
 璃斗の優しさは自分だけに向いて欲しいと願ってしまった。

 初めて他人に、異性に欲が出た。


 それを自覚して、由良は両手で顔を覆う。

 自分がヴァンパイアの末裔であることも、他人と関わらない理由も忘れて。
 不明瞭だった璃斗への想いが今ようやく、由良の中ではっきりとしたものに変わる。



(……璃斗くんを、好きに……)



 だけど、この感情は表に出せないことも充分理解していた。

 何故なら、自分がヴァンパイアの末裔で
 普通の人間の璃斗を困らせたり、傷つけたりはしたくない。

 何より秘密を抱えたまま、この先ずっと一緒にはいられないから。



「……はあ」



 大きく深呼吸した由良は、覆っていた両手をゆっくり離す。



< 39 / 62 >

この作品をシェア

pagetop