冷淡上司と有能若頭は、過度に私を愛おしむ (短)

「え、っと……」


道端で拾われた猫――なんて、そんな風に言う人の家に行くなんて、軽率だ。何があるか分からないし、何をされるか分からない。それに、さっき私は発情したばかり。いくら薬があるといっても、いつも完璧にコントロールできるとは限らない。

行くべきではない、絶対に。


「あ、そう言えば僕の家、露天風呂があるんだよ」
「!!」


何も口にしていなくて、内側にめり込んだお腹。
汗でボロボロの、顔と体。
疲れ切った心――


「お、お邪魔します……っ」


深々と頭を下げた私を見て、イケオジは満面の笑みで「うん」と頷いた。そして黒くて目立たない車に、私を誘導するのだった。


一方――私がイケオジの家を目指している頃。


一人会社に残った矢吹さんは、自分のデスクで考え事をしていた。パソコンの画面には、私の履歴書が映し出されている。そして「とある部分」を、穴が開くほど見つめている。その「とある部分」とは――


「ベータ、か。とんだ嘘つきが入り込んだもんだ」


瞬間、矢吹さんの口角が不気味に上がり、口に弧を描く。目にかかる前髪は、乱暴に手で後ろへとかき上げられた。すると、ギラギラ光った瞳が露になり、彼の獰猛さが一気に表に出る。


「さて、どうしてやろうかな」


その表情が「楽しんでいる」ように見えたのは、きっと気のせいではなく――不吉な出来事の始まりを意味していた。

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