冷淡上司と有能若頭は、過度に私を愛おしむ (短)
でも、それは何も、畳に限ったことではない。

目的地に着き、車を降りた瞬間から――息を呑む光景の連続だった。
立派な門構え、大きなお屋敷、志波さんを出迎える人の多さ。屈強な男の人達が、私の背よりも深い最敬礼でお辞儀をしている。それは言葉に尽くしがたい、圧巻の光景だった。

男の人達が頭を下げる先には、必ず志波さんがいる。つまり――このお屋敷にて、志波さんはかなり偉い立場ということだ。さっきから気にはなっているものの、単刀直入に聞く事は出来ない。一方の志波さんも自分の事には一切触れずに、さっきから他愛のない話を続けていた。

その時、志波さんが「そう言えば」と。形の良いアーモンド型の目を優しく緩めた後、口を開いた。


「移動の前にも言ったけど、この家、露天風呂があるんだよね」
「あ、そうでしたね」

「うん。それでさ、比崎さん――これから、どうする?」
「え……」


志波さんの真剣な目に、体が動かなくなる。
「これからどうする」って、露天風呂の話題を出した後に、わざわざ聞かなくったって――いや、露天風呂の話をしたから「わざわざ」聞くのかな。私に問いかけてるけど、実際は返事を求めてないのだろう。

つまり志波さんは、私との混浴を望んでいるに違いない。


「露天風呂には、入りたいです……。で、でも」
「でも?」
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