冷淡上司と有能若頭は、過度に私を愛おしむ (短)
「じゃあ愛希、行ってらっしゃい。また夜にね」
「はい、行ってきます。行春さん」


胸の前で小さく手を振り、黒い車を見送る。すると、見送っている途中だけど、行春さんからメールが入った。

『愛希と離れて早くも寂しいけど、夜に会えるのを楽しみにしてるよ。何が食べたいか、リクエスト待ってるね』

「……ふふ」


行春さんは、私より十個年上らしい。つまり四十歳。いつも大人びている行春さんが、こんな可愛らしいメールをくれるなんて。そのギャップに、思わず笑みがこぼれる。
「分かりました」と返事をし、スマホの画面を閉じる。すると、自然に笑っている私が画面に映った。今日も一日、頑張れそうだ。


「……」


この一部始終を、まさか見られているとは思わず――その日の私は、ずっと気分よく仕事をこなした。ある人から、声をかけられるまでは。
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