冷淡上司と有能若頭は、過度に私を愛おしむ (短)
引き裂かれる





「比崎、今日の夜は空いてるか?」
「え?」


上司の矢吹さんから質問されたのは、終業五分前のことだった。


「今日は、ちょっと予定があって……。あ、昨日の修正ですか?」
「いや、まとめは完璧だった。別件だ」
「仕事の事でしたら、今お伺いしますが……」
「仕事の事ではない。個人的な事だ」
「え――」


体の周りにセメントを流し込まれたように、足元から固まって動けない。あの矢吹さんが、個人的な事で予定を聞くなんて……。しかも、私に?

ドクンッ

心臓が、嫌な音を立てる。蘇ってくるのは、昨日の事だ。
昨日、誰もいなくなったオフィスで、矢吹さんの前で発情し、薬を飲んだ私。あの時、矢吹さんは「めまいは大丈夫か」なんて言ったけど……やっぱり何か勘付いていたのかも。
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