社宅ラプソディ

5.家庭訪問



坂東五月の住まいは、明日香と同じ社宅とは思えない洒落た美しい部屋だった。

美しいだけでなく、壁の統一感、部屋に奥行きがあり、なぜか天井までもが高く見える。

六畳一間に四畳半二間、二畳のキッチンに脱衣所のない洗面所、社宅の広さは三棟どれも同じはず。

それがどうしてこうなるのだろうと、明日香は遠慮も忘れて五月の住まいを穴が開くほど見つめたのは先週のこと。

窮屈感しかない自宅とのあまりの差に、遅く帰宅した亜久里へ 「坂東さんち、キレイだった、広かった、異空間だった」 としゃべり続け、疲れた夫を気にしつつ、「この部屋も模様替えをしたい。手伝ってくれる?」 と頼むと、


「しばらく帰りも遅いし、土日は休日出勤だから手伝えないけど、明日香の好きなようにやって。

費用は気にしなくていいからさ」


そんな返事があり、明日香はすっかりその気になった。

隣の中瀬美浜にも、五月の部屋の素晴らしさを熱弁した。

素晴らしい部屋を見学したいと言い出した美浜の希望を伝えると、「どうぞ。お待ちしています」 と五月から返事があり、翌日早速ふたりで訪問した。

美浜は坂東宅の玄関前で最初の歓声を上げた。


「この寄せ植え、いいね、色のセンスがあるわ。細身のプランターとラティス、これだったら玄関先でも邪魔にならないわね」


「二色使いのお花、素敵ですよね。ラティスのアイビー、これ、造り物なんですって」


「へぇ、造花っぽく見えないけど、布かな?」


声を聞きつけて出てきた五月は、いらっしゃい、どうぞ、と二人を招き入れた。

手土産を五月に渡しながら玄関に入った美浜は、洗面所を前にしてふたたび歓声を上げた。


「パーテーション、おっしゃれ~! 私、洗面台前にカーテンを吊るすほか思いつかなかった。目からうろこだわ」


玄関から丸見えの洗面台とトイレのドアはパーテーションで隠され、脱衣所の空間も作り出している。

入り口の部屋を見せてもらってもいいですかと、美浜は積極的に家庭訪問をはじめた。

玄関の横は、社宅の住人から 『夜勤部屋』 と呼ばれる独立した四畳半の部屋である。

交代勤務の夫が夜勤明けに昼間寝るため、家族の居住空間と切り離されている。

その部屋を坂東宅では夫婦の寝室にしており、明日香の家と同じくダブルベッドを置いているが、押し入れのふすまをはずしているため、四畳半とは思えぬ広さが感じられた。


「押し入れの棚をデスクにするなんて、思いつかなかった。このアイディア、もっと早く知っていたら息子たちの勉強机になったのに」


「苦肉の策なんですよ。主人の書斎代わり、押し入れの書斎ですけど。この狭さ、主人も気に入っているみたいで」


「わかる、わかる、ドラえもんの押し入れみたいだもん。上はデスクと本棚ですね。下は?」


押し入れの棚を使った机の足元は布に覆われている。


「下には衣装ケースを並べています。ここ、天袋もあるので、結構収納できて助かってます」


押し入れの上の天袋には季節の布団を圧縮袋に入れて押し込んだと、これは明日香も初めて聞いたアイディアだった。

寝室の壁には高原の風景写真が飾られており狭さを和らげている。


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