愛しのあの方と死に別れて千年<1>

 *

 彼の後ろに付いてダイニングルームに入ると、壁際の甲冑(かっちゅう)が目に入った。
 お世辞にも綺麗とは言えない、ところどころ錆びたその鎧。おそらく半世紀は前のものだろう――ということは。

 ――なるほど。ここは騎士の屋敷なのね。

 広い庭に大きな屋敷。けれど家具はシンプルで調度品は極端に少ない。それにライオネルからは、良くも悪くも権力の匂いを感じなかった。
 なぜだろうと思っていたが、質素倹約を好む騎士の一族であると言われれば納得だ。
 
 私たちが席につくと、テーブルの上には既に二人分の食事が用意されていた。メニューはパンと卵とサラダ、それからスープと数種類のフルーツ。
 中産階級の朝食の定番といったメニューであるが、いつもの凝った料理よりも食欲をそそられる。

 どうやら今の私は、相当お腹が空いているようだ。

「口に合うといいんだけど」

 向かい側の席に座った彼は、自らの手でグラスに水を注ぐ。ここには給仕はいないらしい。

「――あ、水でよかったかな? ミルクもあるけど」

 彼の申し出を丁重に断り、私は水の入ったグラスを受け取る。そして水面を見つめた。
 よく磨かれたグラスに揺れる透き通った青。その色に、喉の渇きが一層強まる。

 そんな私の心情に気付いたのだろうか、彼はくすりと笑った。

「さ、いただこうか」

 ――それを合図に私はグラスを口につけ、一気に水を飲み干した。
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