愛しのあの方と死に別れて千年<1>

4.ルイスの素顔


 窓から初夏の陽光が射し込んでいる。あと一時間もすれば、教会の鐘の音が正午を知らせるだろう。


「しかし困りましたね。まさか声を無くされるとは……」

 ルイスはため息をつくと、何かを考えるようなそぶりで外の景色を見渡した。


 ライオネルは今しがた、用事があると言って出掛けていった。ともかく今日はゆっくり休むこと――と、私に言い残して。
 そういう訳で私はルイスを連れ、客室へと戻っていた。

「一応確認しておきますが――それ、芝居ではありませんよね?」

 ルイスは窓の外を見つめたまま尋ねる。その口調は少しも私のことを敬ってはいない。

 ――まぁ、それもそうか。アーサーの言葉が正しければ、ルイスは私の本性を、私の記憶のことを知っているはずなのだから。

 私はペンを取る。

『嘘なんてついてどうするのよ。それに正直、声なんてあっても無くても困らないわ』

 するとルイスは怪訝そうに顔をしかめた。

「あなたはそうかもしれませんが、こちらにも都合というものがあるんですよ」

 はあ、と大きくため息をついて、彼はテーブルを挟んだ向かいの椅子に腰を下ろす。

「声が出ない以外に、どこか身体の不調はありませんか?」

 その問いに、私は少し考えて首を横に振った。
 多少頭痛はするが、寝起きに比べればだいぶマシだ。大したことではない。

 するとルイスはどこか投げやりに言い捨てる。――椅子の背に身体を預け、足を組み、その漆黒の瞳で私をじっと見据えながら。
「そうですか。まぁ、生きているだけで喜ばなければなりませんしね」と。
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