愛しのあの方と死に別れて千年<1>

5.迫られる決断


「既に察していただけていると思いますが、僕はあなたと同じく過去の記憶を持つ人間です――と言っても、最初の頃の記憶はほとんど忘れてしまっておりますが」

 彼はそんな風に話を切り出した。

「それでも、初めて生まれ変わったときのことはよく覚えております。弓矢に当たって死んだと思ったら、赤子に戻っていたわけですから。はじめは死に際に夢でも見ているのかと思いました。けれどどうもそうではない。体の感覚も――痛みもある。自分の頭がおかしくなったのかと、酷く不安になったことを覚えています」

 ルイスのその言葉は、確かに彼が私と同類であることを示していた。
 彼が過去の記憶を引き継いでいる――紛れもない証拠だった。

「けれど驚きや困惑はすぐに歓喜に変わりました。前の人生の記憶があるということは、それを活かして人生をやり直せるということ。失敗を避け、前世の知恵を使い、僕はすぐに神童ともてはやされるようになりました。正直、(おご)りさえ感じていた。完璧な人生を歩むことができる――と。でもそんな未来は来ませんでした。結局僕は、病気であっけなく死んだんです」

 ――そのときの記憶が蘇るのか、ルイスの表情が暗く陰る。

「でもそれでは終わらなかった。僕はまた蘇った。身体こそ違うものの、何度死んでも蘇る。それも膨大な記憶を抱えて……。人間って本当に不思議で、幸せな記憶より辛い記憶の方が鮮明に残るんです。過去の痛みや過ち、自分の犯した罪、それを忘れられぬまま生きていかなければならない……その辛さといったらない……地獄ですよ。普通の人間はそれがないと思うと、それだけで心底羨ましくなることがあります。あなたもそうは思いませんか?」

 ――ああ、確かにそうだ。私だって何度も思った。彼と同じことを、何度も何度も考えた。
 忘れられたらどんなに楽か、それだけを願って死を迎えたこともあった。
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