愛しのあの方と死に別れて千年<1>

「やはりおかしいですね」
「何がだ」

 ウィリアムは顔をしかめる。
 いつだってルイスの言葉には確かな理由と裏付けがある。ルイスがおかしいと言うのならおかしいのだろう。

 だが自分の言葉の何が――アメリアが冷酷である事実をこの目で確認した、そのことについていったい何がおかしいというのか、ウィリアムにはわからなかった。

「ウィリアム様、先ほどアメリア嬢と何があったのか、詳しく教えていただけませんか?」
「まぁ、それはかまわないが」

 ウィリアムはルイスに説明した。アメリアがメイドにお茶をかけたこと、そしてそれに至った理由を見たままに――。

 その最中(さなか)、嫌な記憶が蘇るからか、ウィリアムは次第に表情を歪ませていく。

 ルイスはそんな主人の横顔を冷静に観察していた。
 そしてウィリアムの言葉を聞き終えると、全てを理解したような笑みを浮かべた。

「なるほど……、確かにアメリア嬢は聞きしに勝る人間嫌いのようですね」
「最初からそう言っているだろう」
「いいえ、人間嫌いとは言いましたが、冷酷であるとは申しておりません」
「――は? それはいったいどういう意味だ」

 困惑するウィリアムを、ルイスの黒い瞳が見据える。

「お聞きになりたいですか? 聞けば後悔なさるかもしれませんよ?」
「――っ」

 ルイスの笑みに、ウィリアムは言葉をのみ込んだ。

 ――悪い笑みだ。けれどこの顔をしているときのルイスはウィリアムの意志に関係なく、したいことをし、言いたいことだけを言う。――ウィリアムは意を決す。

「これ以上後悔することなどないだろう」
「確かにそうでございますね」

 ルイスは満足げに頷くと、そもそもは――と、アメリアへの縁談を申し込むに至った経緯から話し始めた。
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