愛しのあの方と死に別れて千年<1>

2.創世の神話


 これは遥か昔、この地上に太陽も月も山も無く、人々も生まれていなかった頃の話です。

 地上の空のずっと上に、神々のおわす天界がありました。そこは小鳥がさえずり、花が咲き乱れ、ただ穏やかに時が過ぎる、まさに楽園と呼ぶにふさわしい場所でした。
 けれどそれゆえに、神々は非常に退屈しておりました。何もすることがないのです。

 あるとき、一番偉い神が言いました。地上に楽園をつくる、と。

 そのために、地上に七人の神々が降り立ちました。
 神々はまずその空に、太陽と月と星々をおつくりになりました。それから天界から運んできた草木の種を大地に蒔き、雨を降らせます。すると地上はすぐに緑豊かな土地になりました。
 最後にようやく人間をおつくりになり、愛と勇気と知恵を与えました。

 人々は神々の統治する土地で、何不自由なく幸せに暮らし始めました。

 同じ頃――その様子を天界からじっと見つめている神がいました。地上に降り立つ七人に選ばれなかった、死と再生の神ハデスです。

 彼は神々の中でただ一人、真っ黒な髪と瞳を持っていました。そしてその姿が、周りの神々から疎まれていることを知っていました。
 だから彼は、天界を去り地上で人々と暮らせないかと考えていたのです。

 ある日、彼は一番偉い神に頼みました。私を人間にしてください、と。

 その望みは叶えられ、彼は人間となり地上に降り立ちました。
 けれども彼は、すぐに残酷な現実に打ちのめされました。彼の真っ黒な髪と瞳は、人間たちにも受け入れられなかったのです。
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