愛しのあの方と死に別れて千年<1>

5.ウィリアムの悩み


「――アム様……、ウィリアム様!」
「――っ」

 ルイスに名前を呼ばれ、ウィリアムはようやく意識を引き戻した。
 ウィリアムが顔を上げれば、ルイスが心配そうに自分を見つめている。

「まだ半分も来ていませんが……ご気分でも悪くされましたか? やはりもう少しいい馬車を用意するべきでしたね」

 ――二人はライオネルの屋敷までアメリアを迎えに行く道中であった。

 だがこの馬車は侯爵家のものでも伯爵家のものでもなく、目立たないようにと街で借りて来た一回り小さい二頭馬車である。それは屋根こそ付いているが、貴族の馬車に比べると揺れは激しく、お世辞にも乗り心地がいいとは言えないものであった。
 そのためルイスは、ウィリアムが乗り物酔いをしたのではないかと考えたのだ。

 けれどウィリアムは首を横に振る。

「いや、大丈夫だ。――ただ、彼女をこの馬車に乗せるのは問題な気がするが」

 そう言ってウィリアムは自嘲気味に笑った。するとルイスは悔しげに顔を歪める。

「……申し訳、ございませんでした」
「どうしてお前が謝る。馬車を用意させたのは俺だ」
「いえ、そうではありません」

 きっぱりと言い切るルイスの真剣な顔。そこに映る悲しげな色に、ウィリアムはルイスの言わんとすることを理解した。

「いいんだ。遅かれ早かれこうなるだろうと思っていた。アーサーとは……しばらく疎遠だったしな」

 ウィリアムの視線が――ゆっくりと足先へ落ちる。

「――だが、まさか本当に……」

 彼とて、安易にルイスの言葉を信じたわけではなかった。
 ルイスが嘘を言っているとは思っていなかったが、それでもアーサーを心のどこかで信じていた。何かの間違いだと、誤解なのだと、否定してくれることを願っていた。けれどアーサーは否定しなかった。それは即ち、否を認めたということだ。
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