愛しのあの方と死に別れて千年<1>
第8章 偽りの筋書き

1.傷跡


 雨が降り出した。

 私はどんよりとした雨空を、窓ガラスごしに見上げていた。まるで今の私の心そのものの、暗く淀んだその色を。

 もうすぐウィリアムが私を迎えに来る時間。けれど私の心は未だ揺らいだまま、何の決心もついていない。

 一晩中考えていた。昨日のルイスの言葉の真意を。そして、私はどうするのかを。
 ウィリアムを愛し、愛されるようにせよ、とルイスは言った。そうすればウィリアムは助かるのだと――。

 でもそれは私にとって、ウィリアムの死の次に辛いこと。
 彼にもう一度愛されたい……かつての私はそれだけを願い、何百年もエリオットの魂を追い続けてきた。彼のために、彼と一緒になるためだけに。
 けれどそれが叶ったことはかつて一度だってない。

 私はやっと諦めたのだ。諦めようと努力して、ようやく諦めた。諦めきれない自分の心を押し殺して、彼が死ななければいいと、それだけで十分だと自分を騙して……。

 でもそれが自分の心に嘘をついているだけだと、誰よりも自分が一番理解している。今だって本当は、彼のことを狂おしいほど愛している。そんな私に、彼をもう一度愛せと言うのか。

 ――ウィリアムを愛する。もう一度、エリオットの魂を……。そして彼にもう一度愛される。それはなんて夢のような話なのだろう。そうして叶い呪いが解けた暁には、ルイスをこの手にかけて、彼の隣で笑えばいい。ルイスは確かにそう言った。

 でもそれは許されないことだ。ウィリアムを救ったルイスを殺めるだなんて……道理に背く行為である。

 確かに私は今まで何人もの人を殺めてきた。それは否定しない。その理由はいつだってウィリアムの命を救うためであり、それは同時に自分のためでもあった。でも、それでも自分のためだけに人を殺すことは避けてきた。それを覆すつもりはない。

 つまりルイスはわかっているのだ。私がルイスを殺せないことを。ウィリアムのために命をかける自身を、私が殺せないことを。
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