愛しのあの方と死に別れて千年<1>

4.偽りの筋書き


 ガタンと大きく馬車が揺れ、私は咄嗟に隣に座るウィリアムの腕を掴む。
 午前中の雨でぬかるんだ地面が、いつも以上に馬車を揺らしていた。


「やはり揺れが酷いな……。すまない、君をこんな馬車に乗せることになってしまって。もし気分が悪くなるようなことがあれば言ってくれ。すぐに止めさせるから」

 ウィリアムはそう言って、申し訳なさそうに私の顔を覗き込む。

 まぁ確かに、貴族の馬車に比べれば揺れが大きいのは事実だ。
 けれど遥か昔は、荷馬車の荷台に乗って移動していたくらいである。この程度の揺れ、本来の私ならばなんてことはない。……ないはずだった。――そう、本来の私なら。

 ――ああ、痛いわね……。

 私は右腕の包帯を睨みつける。
 ガラスで切った右手の傷――それは既に手当てを受けているのだが、どういうわけか痛みが増しているのだ。

 馬車の揺れに従って、疼くような痛みが全身に広がっていく。我慢できないほどではないが、なかなかに辛いものがある。

 ともかく痛みの限界を迎える前に、先ほどのライオネルとのやり取りの真意を聞き出さなければ……。そう考えた私は、斜め前に座るルイスへと視線をやった。
 するとルイスは、私の意図に気付いてくれたようだ。

「ウィリアム様、そろそろ教えて差し上げたらいかがですか? 先ほどのライオネル様に対する、あなたの態度のその理由(わけ)を」
「あ……ああ、そうか。そう……だったな」

 ウィリアムはルイスに促され、躊躇いがちに口を開く。

「まずは謝らせてほしい。今回のことは全て、もとはと言えば俺のせいだ。君が川に落ちたことも……声を……失ってしまったことも……」
「……?」

 ウィリアムは酷く言いにくそうな顔で謝罪の言葉を述べた。

 けれど私には、その意味が少しもわからなかった。腑に落ちないままの私に、ウィリアムは言葉を続ける。
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