愛しのあの方と死に別れて千年<1>

8.眠れぬ夜に


 ルイスが自室へと戻ったのは、真夜中を過ぎた頃だった。

 今後のアメリアへの対応についてウィリアムとの話し合いが終わったのはつい先ほど。
 本来ならウィリアムの寝支度にも付き合わなければならないが、さすがのウィリアムも今日ばかりは早く独りになりたかったのだろう。あるいは、ルイスのシャツをワインで汚してしまったことを気まずく思ったか。
 今夜の世話はいらない――と言い渡されたルイスは、部屋へと返されていた。

 ――まったく、あの方にも困ったものだ。

 自分にワインをぶちまけたウィリアムの姿を思い出し、ルイスはため息をつく。

 ウィリアムには昔からそういうところがあった。社交界での彼の評判は上々だが、それはいつだってルイスがフォローしてきたからに他ならない。もともとのウィリアムの気性は理性的というよりは感情的なタイプであるから、仕方がなかったとも言えるが。

 ルイスは部屋の灯りも点けぬまま、ジャケットを脱いで椅子の肘置きにかける。
 続けてワインで汚れたシャツを脱ぎ去ると、迷うことなくくずかごへと放り捨てた。どうせ落ちはしないのだ。

 クローゼットから新しいシャツを取り出し、いつものように袖を通す。そしていくつかボタンをはめて、はた――と手を止めた。

 ――馬鹿か、僕は……。もう真夜中だぞ……。

 たった十五年の間に、ウィリアムに尽くすことがすっかり癖になってしまった。こんな時間に着替えていったい何になるというのだ。

< 189 / 195 >

この作品をシェア

pagetop