愛しのあの方と死に別れて千年<1>

 ――初めての転生のとき。彼は母親だった女に捨てられた。
 理由は彼の容姿が両親のどちらとも違っていたから。彼の髪と瞳が、あり得ないほど黒い色をしていたから。

 二度目も、三度目も、四度目も……何度死と生を繰り返そうがそれは変わらなかった。教会に預けられたときは感謝すらした。むしろ、自分を産んだ女たちを哀れにすら思った。
 自分と似ても似つかない赤子を産み、何の落ち度もないのに父親である男に不貞(ふてい)を疑われ、捨てられるか暴力を振るわれるか、とにかく女たちは皆一様に不幸になった。そんな彼女たちを哀れに思わないはずがなかった。

 ――いや……違うな。確か一人だけいたか。僕を育てようとした女が……。

 もう名前も顔も思い出せないその女性の姿を思い出そうとして、けれどすぐに諦める。一緒にいたのはたった二年ほど。歩けるようになる頃には自ら家を出てしまった。それももう三百年以上前のことだ。思い出せるわけがない。

 ――すべては僕の(ごう)のせい。それは理解している。だがそれでも……他の誰かを不幸にしようとも、僕は決して諦めるわけにはいかないんだ。千年の間、自分に付き従ってくれているあの男の為にも……。

 ルイスはその男のことを考えて――机の上の置時計に目を向ける。約束の時刻だ。

 重い腰を上げ、部屋の窓を開け放つ。するとそれを待ちわびていたかのように、べネスが夜空から舞い降りてきた。その足には手紙がくくりつけられている。
 そこにはこう書かれていた。

《首尾よく。計画続行に問題なし》

 期待どおりの内容に、ルイスはニヤリとほくそ笑む。

「その右目……返してもらうぞ」

 呟いて、彼は手紙に火をつけた。
 その赤い色に忌まわしいアーサーの姿を思い浮かべ――彼は今夜もまた、眠れぬ夜を独りきりで過ごすのだった。


(2巻へ続く)
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