愛しのあの方と死に別れて千年<1>

2. 新たなる計画

 日の入りまではまだ十分時間がある。
 けれどここ連日は雨ばかりが続いていて、空はどんよりと曇っているため薄暗い。それはまるで、私の憂鬱な心を写し出しているかのよう――。

 だが私の心の内など知りもしないハンナは、私の髪を結い終えると鏡の向こうで誇らしげに微笑んだ。

「ほら、終わりましたわ! 本当にお美しい……!」

 その声に鏡をじっと見つめれば、確かにそこには文句のつけようもない美しい少女の姿が映っている。

 深紅のドレスに身を包み、首には大粒のルビーがはめ込まれたチョーカー。耳飾りはそれとお揃いで、しずく型にカットされたルビーが照明の灯りを反射しキラキラと輝いている。

 そんな鏡の中の私に、ハンナはただただ頬を緩ませた。

「ああ! お嬢様が夜会に出席なさるなんて何ヶ月ぶりでしょう! ファルマス伯爵も、お嬢様のお美しさに心打たれること間違いなしです!」

 確かにハンナの言うとおり、夜会に出席するのは本当に久しぶりだ。なぜなら私は今日までずっと、ウィリアムと接点を持つまいと屋敷に引きこもっていたのだから。

 けれど状況は変わってしまった。このまま引きこもっていたらお互いの両親にあっという間に結婚させられてしまうだろう。それだけはどうあっても避けなければならない。

 だから私は夜会に出席することを決めた。ウィリアムが出席するであろうこの夜会に。

「ハンナ……言ったはずよ。彼と結婚するつもりはないと」
「ええ、ええ、わかっています。けれど、けれど……! ファルマス伯爵はお茶会でのお嬢様の態度を見ても縁談を取り下げなかった強者ですよ! あの方はきっとお嬢様の心根のお優しさを見抜かれたのですわ! それなのにお嬢様ときたらこの期に及んでまだあの方のお心を弄ぶつもりだなんて、なんと罪深いことでしょう!」

 ハンナは軽やかなステップで部屋の中をくるくると回り、舞台女優のようにその身体を両手で抱きしめ、切なげに涙を流す振りをしてみせる。

 そんな彼女を見ているとどうも毒気が抜かれてしまうが、ここで反応したら負け。私は椅子に腰かけたまま無言を貫く。

 すると彼女は今度こそ残念そうな顔をしたが、すぐさま身を(ひるがえ)してツカツカと歩み寄ってきた。

「お嬢様! 私は――いいえ、使用人一同は、お嬢様の幸せを心から願っております! ファルマス伯爵なら、きっとお嬢様を幸せにしてくださいます!」
「ハンナ……」
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