愛しのあの方と死に別れて千年<1>

4.探り合いのワルツ

 夜会も佳境(かきょう)に入った。

 アメリアとウィリアムはワルツを踊っていた。

 先ほどの騒ぎはお互いの両親によって上手く収められ、ウィリアムの父ロバートと、アメリアの父リチャードは両家の繁栄を願い固い握手を交わした。
 アメリアとウィリアムは、正式な婚約に至ったのである。

 その後ロバートとリチャードはそれぞれの仕事について、またそれぞれの妻は、結婚までの行事をどのように行うかについて話に花を咲かせていた。
 必然的にウィリアムとアメリアは二人きりにされる。

 ウィリアムはアメリアが誰かとダンスを踊っているところをただの一度も見たことがなかった。社交界デビューを果たした頃のアメリアにはダンスの申し込みが殺到したものだが、それをことごとく断っているうちに誰からも誘われなくなったためである。
 けれどルイスは言っていた。アメリアは八歳で全てを完璧にこなしてみせた、と。

 ウィリアムはしばらく考えた末、アメリアにダンスを申し込んでみた。断られるだろうかと思ったが、アメリアは迷いなくウィリアムの手を取った。
 そういうわけで今、二人はワルツを踊っているのである。

 二人はフロアの中央でホールドし、軽やかにステップを踏んでいた。ワルツの三拍子に合わせ、複数のステップを組み合わせながら優雅に回転を繰り返す。まるで長年のパートナーのごとき安定感だ。

 ウィリアムの燕尾服の裾と、アメリアの深紅のドレスがテンポよく広がる。
 アメリアのダンスは完璧だった。スイングはダイナミックかつ美しく、難易度の高いステップも悠々とこなす。
 それに何より、初めての相手のウィリアムの動きの先を読み、ぴったり息を合わせてくる。

 ウィリアムはそんなアメリアのはにかんだような笑みを見つめ、考えた。
 今ならば、周りに声を聞かれることもないだろう――と。
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