愛しのあの方と死に別れて千年<1>

5. 交換条件

 テラスに出ると、冷えた夜風が二人の頬を撫でた。――月は厚い雲に覆われている。

 アメリアはテラスの柵に身体を預け、しばらくの間庭園を眺めていた。ウィリアムはそんなアメリアの背中を、ただじっと見つめていた。

 長い沈黙が続く。――それを破ったのはウィリアムの方だった。

「アメリア嬢……あなたは何を考えておいでなのです」

 それはウィリアムの正直な気持ちであった。
 アメリアは背を向けたままで答える。

「何を……とは?」
「あなたはなぜ、人を避けて生きてきたのですか。ルイスに聞きました。あなたは使用人に対しては、世間で噂されるあなたとはまるで別人のように接すると。なぜですか」

 ウィリアムは続ける。

「この婚約、あなたにとって不本意なものだとは理解しています。まさかあなたが私の申し出に応えてくださるとは思っておらず、先ほどは大変失礼なことをしたと思っております。けれどあなたの言葉が嘘であったとしても、私はあなたが結婚の申し出を承諾してくれて、本当に嬉しく思っています」
「嬉しい……?」

 刹那、アメリアから低い声が放たれる。彼女はようやくその身を翻し、睨むような目でウィリアムを見据えた。

「白々しい。そんな言葉不要よ。それにまどろっこしいのは嫌いだと、以前伝えたはず」
「…………」

 ウィリアムは押し黙る。
 アメリアの口調は確かにキツイが、その表情に冷淡さや冷酷さは感じられない。
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