愛しのあの方と死に別れて千年<1>

2.ルイスとの対面

 アメリアが外に出ると、ウィリアムは既に馬車から降りて待っていた。ウィリアムはアメリアの姿を確認すると、爽やかな笑みを浮かべる。

 アメリアはそんなウィリアムの笑顔に――相も変わらず白々しい笑顔だわ――などと考えながら、自分も負けじと微笑み返した。

「ごきげんよう、ウィリアム様。本日はお誘いいただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ急にお誘いしてしまって。いい天気になり良かったです」
「本当ですわ」

 この〝本当ですわ〟の意味は、〝お誘いしてしまって〟に対するものである。決して〝いい天気になり良かった〟への返事ではない。

 アメリアがウィリアムから、ボート遊びの誘いの手紙を受け取ったのは二週間前。けれどその手紙はアメリア本人ではなく、アメリアの父リチャードに宛てられた。
 おそらくウィリアムは、アメリアを直接誘っても断られるだろうと踏んだのだ。しかも、きっちりアメリアの予定のない日を選んでくるという用意周到ぶり。婚約者相手になんとあざとい男なのだろうか。

「そろそろ出発しましょうか」

 ウィリアムはアメリアの手を取り馬車に乗ろうとする。
 けれどその寸前で、何かを思い出したように足を止めた。

「そうだ。先に彼を紹介しておきましょう」

 ウィリアムはそう言って、馬車の扉の前に控える男に目を向ける。
 アメリアがその視線を追えば、そこには漆黒の髪と瞳を持つ青年の姿があった。

「――っ」
 ――彼は……。

 それはまさしくルイスに違いなかった。先日執事に素性を調べさせた男の容姿に酷似していた。――そのことに気付いたアメリアは、困惑を隠せなかった。

 なぜなら彼女は気付けなかったからだ。
 彼が黒目黒髪という非常に目立つ容姿をしているにもかかわらず、ウィリアムに紹介されるまで、そこに彼がいることに気付けなかった。

 ――この男……いったい……。

 こんなことは初めてだった。いつだって周りの状況に気を配っているつもりのアメリアにとって、これほど目立つ人間の存在に気付けないなど、記憶のある限りなかった。

 動揺を隠せない彼女に、ルイスが一歩近づく。

 彼はニコリと微笑み、恭しく(こうべ)を垂れる。

「わたくし、ウィリアム様の付き人を務めております、ルイスと申します。以後お見知りおきを」
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