愛しのあの方と死に別れて千年<1>

3.湖のほとりで

 一時間ほど馬車に揺られてアメリア達が着いた先は――スペンサー侯爵家の領地である――真っ青な野原と豊かな森が広がる湖のほとりであった。

 水面(みなも)()んだ鏡のように空の色を映し出し、気持ちのよい風が豊かな木々の香りと小鳥のさえずりを運んでくる。

「さ、行きましょうウィリアム様! わたくしが案内致しますわ!」

 馬車から降りて真っ先に先頭に立ったのはカーラであった。
 カーラはウィリアムに満面の笑みを向け、彼の腕を掴んで森へと続く小道を進んでいく。

「カーラ、やめないか。私はアメリア嬢と一緒に……」

 ウィリアムはアメリアの方を振り返る。
 けれどもアメリアは、そんな些細なことは気にしないわと手を振り返した。

「わたしのことは気になさらないで。ウィリアム様を独り占めしては悪いですもの」

 ――アメリアはここに着くまでの間のカーラの様子を思い起こす。

 カーラは馬車の中で、アメリアに対して一言も口を利かなかったのだ。それどころかあからさまに敵意のある視線で睨んでくる始末。
 きっとカーラはウィリアムを慕っているのだろう、と察したアメリアは、カーラとウィリアムの背中を笑顔で見送った。

 もっとも、カーラの態度の原因はそれだけではないのだが。

 すると、背後から聞き覚えのある声が降ってきた。振り向けばそこには、エドワードとブライアンの姿がある。

「妹が申し訳ない」
「あいつ、アメリア嬢にウィリアムを取られて拗ねてるんですよ」

 森の中へと消えていく妹カーラに呆れたような眼差しを送る二人は、そもそもの元凶が自分たちの発言であるという責任を感じている様子はない。

 そんな二人に、アメリアは顔から笑みを消す。

「三年前のこと、話したのね?」
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