愛しのあの方と死に別れて千年<1>

6.王子の仮面


 ウィリアムとカーラがボートに乗っている頃、アメリアはアーサーと二人森の中を歩いていた。

「まぁ、それでその後はどうなったんですの?」
「それがウィリアムのやつ、そのままボールを追いかけて川に落っこちて」
「まぁ!」
「水深は膝ほどだったから怪我はなかったんだが、全身びしょ濡れに」
「ふふっ。あの方いつも澄ましているのに、そんな一面もあるのね」
「きっとあなたには良いところを見せたいのだろうな」
「まぁ。ウィリアム様にもそういう可愛らしいところがあるのね」

 ――二人はウィリアムの話題に花を咲かせていた。

 アーサーはウィリアムと十年の付き合いになる。
 今でこそアーサーはエドワードやブライアンとばかり(つる)んでいるが、学生時代はウィリアムと共に監督生(プリフェクト)を任されていたため、ほとんどの時間をウィリアムと過ごした。

 真面目で人当たりが良く生徒の模範となるウィリアム。それとは対照的に、いつも自分の好きに振る舞ってはいるが、人を纏める力に長けたアーサー。二人はとても良いコンビだった。

「でもわたくし全然知りませんでしたわ。ウィリアム様が殿下とご学友だったなんて」
「それはそうかもしれないな。卒業してからの彼は家の仕事を覚えるのに忙しそうだったし、偶然夜会で出くわしても軽く挨拶を交わすくらいだったから」
「まぁ、そうなのですか? 殿方というのは意外と薄情なものですのね」
「ははっ、これは手厳しいな。だからウィリアムがあなたと婚約したことを知ったときは、本当に驚いた」

 アーサーの言葉に、アメリアは顔を赤らめる。

「そう、ですわよね。わたくしも驚きましたわ。ウィリアム様ったら、まさかあんなに人のいるところで……」

 おそらくプロポーズのときのことを言っているのだろう――と、アーサーは思い当たる。
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