愛しのあの方と死に別れて千年<1>

7.ルイスの目的


 アーサーは去っていくアメリアの背中を黙って見送った。

 そして姿が見えなくなると、彼は顔から表情を消し――生い茂る木々のその更に奥を――鋭い眼光で射るように睨む。

「盗み聞きとは――さすが下賎な者のすることは違うな」

 アーサーが声高(こわだか)に言うと、鬱蒼(うっそう)とした茂みの奥の大木(たいぼく)から何者かが姿を現す。

「さすがはアーサー様でございますね」

 いつもどおりの抑揚のない淡々とした口調――無感情な瞳。
 ためらうことなく茂みから出てきたその男こそ、ルイスだった。

「申し訳ございません。聞くつもりはなかったのですが――」

 口ではそう言っておきながら、けれど心の中では少しも申し訳なく思っていない様子で、彼は作り笑いを浮かべる。

 アーサーはそんなルイスの笑みを、蔑むように鼻で笑った。

「あんな場所に隠れておいて……よくそんな白々しいことが言えるな」
「ええ。お二人の邪魔をしまいという、私の最大限の配慮でございます(ゆえ)
「…………」

 実際、ルイスのアーサーに対する態度は白々しいを通り越して無礼である。
 けれど今はそれは重要ではない。――アーサーはルイスを睨みつける。

「……ウィリアムの指示か?」
「――は」
「ウィリアムの指示でつけていたのかと聞いている」

 ――それこそが、今最もアーサーが気にすべきことだった。
 もしもルイスのこの行動がウィリアムの指示であったなら、アーサーにとっては憂慮すべき問題だ。

 だがルイスは否定する。

「まさか。ウィリアム様がこのようなはしたない真似を指示するはずございません」
「なら、これはお前の私情というわけだな?」
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