愛しのあの方と死に別れて千年<1>

8.その頃、双子とウィリアムは


 その頃入江では――……。

「あっ、おいカーラ!」
「どこ行くんだよ!」

 ボートが岸に着くやいなや、なにも言わずに森の方へ駆け出していった妹の姿に、エドワードとブライアンは大きくため息をついた。

「あーあ。今あいつ泣いてたぞ。やってくれたな、ウィリアム」
「やっぱり思ってたとおり、修羅場になったな」

 二人は桟橋(さんばし)のビットにボートのロープを結んでいるウィリアムに文句を垂れる。
 するとウィリアムは申し訳なさそうに顔を曇らせた。

「悪い。さすがに言いすぎたかもしれない」

 それは普段のウィリアムからは絶対に出ない言葉で、二人は驚きを隠せない。

「珍しいな。お前が謝るなんて」
「あぁ。初めてじゃないか?」

 ウィリアムがこんなにもあっさりと自分の否を認めるのは、二人の記憶上初めてのことだ。
 だがウィリアム本人にそんな自覚はないのだろう。彼は怪訝そうに眉を寄せる。

「お前たち……いったい俺を何だと思ってるんだ。謝罪くらい……」
「いや、違う違う。そうだけど、そうじゃなくてさ」
「お前、いつもは何やらせたって完璧だろ? 人付き合いだって、良くも悪くも当たり障りないことしか言わないし」
「そんなことは……ないと思うが」
「あるんだよ。鉄壁っていうか潔癖っていうか。隙がないっていうかさ」
「ま、無自覚なんだろうなとは思ってたけど。でも、そんなお前が反省するほど言いすぎたってことは、それだけ本気なんじゃねぇの?」

 二人はいい機会だと言わんばかりに好き放題言いまくる。
 だがウィリアムには二人の言葉の意味がわからなかったようだ。「本気? 何にだ」と真面目な顔で問い返す始末である。――当然、呆れかえる二人。

「あのさぁ、お前、普段は完璧なのにどうして肝心なところでそうなんだよ」
「アメリア嬢のことに決まってるだろ。今まで恋人の一人も作らなかったお前が急に婚約するくらいなんだから、本気なんだろって話だよ」
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