愛しのあの方と死に別れて千年<1>
第5章 ユリアと少年

1.思い出――ある夏の日


 風が……(かお)る。

 ここは、どこ……?

「――! ――……ア!」

 誰かしら。わたしの名前を呼んでいるのは……。

「……リア!」

 あぁ、頬を撫でる風が心地いい。……木漏れ日が、眩しい。

 聞こえるのは……懐かしい声。

 そう――そうだわ。ここは……。

「ユリア――ユリアってば! またそんなところに登って!」
「――っ」

 聞き慣れたその声に、わたしはハッと飛び起きた。
 目を開ければ、そこに広がるのは青々とした草原と、よく見慣れた町。

「……あ」

 それを確認すると同時に、ぐらっと傾くわたしの体。

「っとと」

 危ない危ない。いつの間に眠ってしまったのだろう。
 わたしはバランスを取り直し、声のする方に視線を下ろす。

「ねぇ、ユリアってば!」

 そこには十歳ほどのまだあどけない少年がいた。
 困ったような、怒ったような顔をして、木の下からわたしの名前を叫んでいる。

 ああ、そうだわ。わたし、待ち合わせをしていたんだった!

 そのことを思い出し、わたしは頬を膨らませた。

「ちょっと! あなたが大声を出すから落ちそうになったじゃない!」

 そう言い放ち、さっと木の下へ飛び降りる。
 すると彼は急いで駆け寄ってきた――が、その顔は不満げだ。

「もう……何だよ、木の上なんかで寝てるのが悪いんだろ。女の子があんな高い所に登って、本当に落ちて怪我でもしたらどうするんだよ」
「何よ、あなたが待たせるのが悪いんじゃない」
「それは……そうだけど。仕方ないだろ、店の手伝い終わらなかったんだから」
「またそんなこと言って! じゃ、いいわよ。せっかく木苺(きいちご)のジャム持ってきたのに、あげないから」

 わたしはつんと顔を背ける。
 本当はあげないつもりなんてないけれど、ちょっとだけ意地悪を言ってみたくなって。
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