忘れられた恋の物語
プロローグ
何もない空間に誰かが1人で立っていた。
そっと近付いてみるとその人はこちらを振り返った。
『ようこそ。』
その人はそれだけ言って柔らかく微笑んだ。この世のものとは思えない透き通った声だった。
「ここは…どこですか?」
その質問には答えずにその人は言う。
『あなたは"心残り救済制度"の対象者となられました。』
「え…?何ですかそれ。」
『死者の方が心残りなく成仏が出来るように亡くなる前の元いた世界に戻り、やり直す機会が設けられる制度です。この制度をご利用になると1ヶ月間、元の世界で生前出来なかったことを経験することができます。』
「死んだのに…そんなこと可能なんですか?」
『はい。制度をご利用になるかは個人の自由です。ですがこの制度は死者の中から対象となった方のみにお知らせしています。そしてその機会はお一人様一度きりです。』
「一度きり…。」
『あなたには生前の心残りはありますか?』
「…はい。」
『少しでも心残りがある方には制度のご利用をおすすめしています。機会は一度なので。制度についてご説明致しますのでそれをお聞きになってからお考えになっても大丈夫です。』
「…それなら聞いてみても良いですか?」
『承知しました。では詳細をご説明します。お考えになって内容に同意頂けた場合は、この後お渡しする書類にサインをお願いします。』
「わかりました。お願いします。」