忘れられた恋の物語
「お…?どなたですか?」


そう聞かれて、『会ったことのある人には自分が別人に見える』という説明を思い出した。


「あっ…面会に来たんですが…。病室を間違えたみたいです。」

「そうでしたか。どなたの面会ですか?」

「ああ…いえ…!大丈夫です。多分隣の病室だと思うので。もう行きますね。」


断った俺を看護師さんは不思議そうな顔で見ていた。

病室から出た俺は、その足で屋上へと向かった。俺が入院していた頃、屋上にはいつも人がいなかったことを覚えている。

だから人気のない場所で彼女に会うための心の準備をしたかった。


階段を上り、ドアを開けると爽やかな風が吹いてきた。風を感じたのは久しぶりだなと思った。

死ぬ前はいつもベッドにばかりいたから。

その時、柵の向こう側に座り込んでいる人が見えた。

後ろ姿でもすぐにわかった。彼女だと。

< 25 / 156 >

この作品をシェア

pagetop