忘れられた恋の物語
そこからは考える暇もなかった。気が付いたら俺は彼女に声をかけていた。


「そこで何してるんですか?」


振り向いた彼女は無表情だった。俺が思っていたような悲しそうな顔や、つらそうな顔はしていなかった。


「まさか死のうとしてる?」

「違いますよ。ここが私の定位置なんです。」


"定位置"。屋上の柵の外が"定位置"だと言う彼女に心臓を握られたように苦しくなった。

彼女の言葉は、俺が死んでからも何度もここに来たという意味だから。


「こっち来て。」


そういうと彼女は素直に柵に手を掛けた。

柵なんてそんなに簡単に乗り越えられる物ではないのに、彼女は慣れた様子でこちら側に戻ってくる。

それの姿を見るのが本当につらかった。

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