あなたの子ですよ ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~【短編版】
イングラム国の王都ネーウからローレムバ国のザフロス辺境領までは馬車で丸二日かかる。
いつもよりもみすぼらしい馬車に乗せられ、クロヴィスははたと思った。
「アル、イングラムに向かうのにこのような馬車でよいのか?」
「殿下。今、我が国の状況はけしてよいとは言えません。いかにもといった目立つような行動をされますと、狙われてしまいます」
アルフィーが真剣な顔でそう言えば、クロヴィスも納得する。
コリーンもおそるおそるといった感じで馬車に乗っているが、彼女の目はどことなく死んだ魚を思わせた。
ここ最近の彼女は酷い。
毎日、何かに怯えるかのようにして、王城で身を潜めている。その「何か」は民の声だ。
今回のイングラム訪問は、そんな彼女の気持ちを少しでも晴らせるのではないかと思っている。
ガタガタと不規則に揺れに、身体も痛くなる。コリーンは、うとうととしながらクロヴィスに身体を預けていた。
まずはテルキの街で一泊。それから国境の街ソクーレにある関所を越えれば、イングラム国となる。
途中、休憩を取りながら馬車は進んでいく。
王都を離れれば、地方の現状に胸が痛む。
次第に日は沈んでいくものの、なかなか馬車は止まらない。テルキの街であれば、そろそろ到着してもいい時間である。
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