卒業式の告白を叶えたい元教え子に、こじらせ先生は溺愛される~再会は深愛の始まり
既に、退職の事は職員会議で報告され、浮かれた私は、結婚が理由だと言ってしまっていた。
今更、結婚破棄になって、やっぱり教師を続けます、なんて言えない。
他の学校に行くことも考えたけど、幼馴染みの友人、美和が経営している喫茶店が忙しくなって、人を募集するからと、雇ってもらった。
「ごめんね、もっと私が話を聞いてあげていたら、傷つく前に別れていたのに」
美和は、自分のことのように泣いてくれた。
「美和に心配掛けないように、寂しかったことを正直に言わないで、格好付けてた私が悪いんだから。もう、大丈夫だよ。あんな奴、別れて良かったんだから」
私は、泣いてくれた美和を悲しませないように、平然として、笑って見せた。

美和のお店は、都心から少し離れた場所にあり、私は、電車で駅1つの所に引っ越して来た。
木目調の建てものに、ソファ席やテーブル席、植物を置き、クラッシックが流れていて、落ち着いた雰囲気が楽しめる。
有機野菜を使った料理やオーガニックコーヒーとで、人気のお店だ。
ゆくゆくは、また別の空間を感じる店舗を増やしたいと、野望を持っている美和。
しっかり者で、私の1番の理解者でもあり、何でも話せる存在。
美和は30歳で結婚して、子供はいない。
旦那さんの山坂さんは、レストラン経営のオーナーで、美和とは、共通の結婚観を持っていて、自分のやりたい事を優先にしたいと、2人だけの生活を考えている。
信頼し合っている2人を見ていると、羨ましい。
羨ましく思っても、私はもう、男性を信じられなくなっていた。

お店に従業員として勤めた頃は、コーヒーの種類も分からなかったけど、美和にコーヒーの淹れ方も教えて貰って、今では慣れたものだ。
そして、美和は私のために、お店の一角にある、6畳くらいの小さな部屋を、時間帯を決めて、勉強が出来る自習室として使えるようにしてくれた。
長机に椅子を置いて、自習室以外の時間帯は、1人で来るお客さんがよく使っている。
「奈菜は教師より、身近に教えてあげる方が向いてるよ」
美和は、教師になる夢を語っていた頃の私を知っている。
そんな私のために、居場所を作ってくれた。

私達は、自習室ではなく、『教室』と呼んでいる。
そこは高校生限定の自習室で、有料会員制にし、定員6人、週3日、15時から18時まで開放し、国数英で分からない所があれば、私が教えるという、プチ塾を兼ねている。
「奈菜先生、ここ教えてよ」
数学専門だけど、英語と国語も多少教える事が出来るし、今も必死に勉強して、聞かれたら教えることが出来るようにした。
そして、数学を本格的に教えて欲しい子達には、家庭教師として契約をしている。
ようやく、毎日が楽しいと思えるようになってきた。
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