卒業式の告白を叶えたい元教え子に、こじらせ先生は溺愛される~再会は深愛の始まり
「もう大丈夫だから。深呼吸して、思い出すな」
しばらくすると、人気がない、海が見える場所に車が止まった。
車を降りて、後部座席に移った耀が、
「奈菜、おいで」
そう言って、両手を広げていた。
私は座席を倒し、耀に引き寄せられて後部座席へ移った。
「俺が絶対守るから。安心して」
ただ、私を強く抱きしめて頭を撫でてくれる。
涙が零れ落ち、嗚咽が止まらないくらい泣いた。
耀はその間、ずっと黙っていた。
「ありがとう。もう大丈夫」
いつの間にか震えも止まっていた。
「じゃあ、山坂さんが心配してるから、帰ろうか」

店に戻ると、私の顔を見て、美和は店の奥に入り、口に手を当て、声が漏れないように泣いていた。
「奈菜、ごめん。あのあと心配で、直ぐに北見くんに電話したの」
美和は涙ぐんで、
「私があんな事言ったから・・・無事で良かった。電話しても繋がらないって聞いた時は、何かあったらどうしようかと思って・・・ごめんね」
そして、その姿を見て、私が泣き出したものだから、耀はお店の番をしばらくしてくれていた。

「北見くん、奈菜を宜しくね」
「はい、今日は連れて帰ります」
店を出て、耀に肩を抱かれ、車に乗った。
「今日は、俺の家に泊まって。心配だから」
「うん。でも着替えとか無いし」
「奈菜の家に寄るから、泊まる用意、しておいでよ。あぁ、多めにね」
家に寄り、私はキャリーバッグに荷物を詰めた。
靴を履き、玄関から何気なく部屋を眺めた。
その時は、もうここで住む事が無くなるなんて、思いもせずに、鍵を閉めた。

「晩ご飯、何か食べたいものある?」
「あんまり食べたくないかな・・・」
「そっかぁ。じゃあ、体が温まる物、俺が作るよ」
耀は、私に気遣って野菜スープを作ってくれて、片付けまでしてくれた。
耀の優しさが私を癒やしてくれた。
「奈菜、お風呂に入っておいでよ」
「うん」
お風呂に入って頭によぎった、今日の大介との出来事。
耀が助けに来てくれて良かった・・・
もう2度と会うことも無い。
辛かった過去はもう終わらせないと。
ふと顔を上げ、目の前にある鏡を見る。
鏡の中に写る私の体は、耀の愛で満ち溢れていた。
全身に残っている耀からの愛の印。
それを見て、もう私は耀だけのものだと確信できた。
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