過去の名君は仮初の王に暴かれる

初夜 ※

「はぁ……っ、はあ……」

 夫となった男の律動的な動きに、エルゼは小さな声をもらした。腹の奥をたくましい肉茎で貫かれるたび、引きつれるような痛みとともに、かすかな快感がうまれる。
 しかし、今はただ、エルゼはその快感に酔いしれる余裕はなく、ロレシオの広い背中にしがみつくのが精いっぱいだ。
 
「ロレシオ、さまっ……」
「大丈夫か?……その、痛むのではないか……?」
「だいじょ、……ぶ、です……。ですから、もっと……」
「ぐっ……。そう煽らないでくれ。君の身体に、……無理を強いることを、したくない」

 ロレシオは熱にうなされたような、青灰色の瞳でエルゼの白い肢体を見つめる。劣情にぎらつくその瞳の奥にはどこか、遠慮のような、罪悪感のような色が浮かんでいた。その罪悪感の理由を知っているエルゼの胸の奥が、チリチリと痛む。

「あっ……、んう……っ!」

 厚くゴツゴツした手のひらで、ロレシオはエルゼの輪郭を確かめるようになぞっていく。無骨な見た目から想像がつかないほど、ロレシオの手は優しい。
 エルゼはその手を握る。このたくましい手に掴まっていないと、身体中をさざ波のように襲うかすかな快感の波が、やがてどこか遠く攫って行ってしまう気がして。

 やがて、エルゼのまっさらな腹に、ロレシオは熱い精を放つ。
 口づけのない男女の交わりは、意外なほどあっさりと終わった。
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