過去の名君は仮初の王に暴かれる
やがて、ハッとしたエルゼが慌てて視線をそらした。
「……困らせるようなことを言ってごめんなさい。陛下が本心からそう言っていらっしゃるのは、ちゃんと分かっています」
会話を途切れさせないよう、エルゼはそれだけをやっと答えた。エルゼの瞳に見惚れていたロレシオも、ゆっくりと目を逸らす。どういうわけか、目元が少し赤い。
「すまない。君をじっと見つめるなんて、不躾だった。今日の私は、少しおかしいようだ。このあたりで切り上げさせてくれ」
ロレシオはカップの底に残ったぬるい紅茶をぐいっと飲み干し、早足で自室に戻っていった。
賑やかだった部屋に、再び静寂が訪れる。あまりに静かだ。エルゼは額に手を当てた。
(本当に駄目ね。わたくしったら、ロレシオ様を困らせてしまったわ……)
多忙なロレシオの心理的負担になるのは、エルゼにとっても本意ではない。
それでも、ロレシオの片思いの相手が部屋にいると思うと、エルゼの胸はぎゅうっと痛んだ。
(こんな嫉妬をするなんて、馬鹿げているわ。陛下の大事な方へのお気持ちを、ぽっと出のわたくしが変えることなんてできないのに)
ため息をつきつつ公務に戻ろうと立ち上がったその時、エルゼはとあることに気づいた。机の片隅に、書類が数枚置きっぱなしになっている。エルゼの渡した本もそのままだ。
「まあ、これって午後からの会議で使うんじゃなかったかしら」
どうやらロレシオは、何も持たずに帰ってしまったらしい。侍女を呼びつけてロレシオに届けさせようにも、近くに侍女たちの姿はない。
エルゼは慌てて立ち上がり、忘れ物を持って部屋を飛び出した。
「……困らせるようなことを言ってごめんなさい。陛下が本心からそう言っていらっしゃるのは、ちゃんと分かっています」
会話を途切れさせないよう、エルゼはそれだけをやっと答えた。エルゼの瞳に見惚れていたロレシオも、ゆっくりと目を逸らす。どういうわけか、目元が少し赤い。
「すまない。君をじっと見つめるなんて、不躾だった。今日の私は、少しおかしいようだ。このあたりで切り上げさせてくれ」
ロレシオはカップの底に残ったぬるい紅茶をぐいっと飲み干し、早足で自室に戻っていった。
賑やかだった部屋に、再び静寂が訪れる。あまりに静かだ。エルゼは額に手を当てた。
(本当に駄目ね。わたくしったら、ロレシオ様を困らせてしまったわ……)
多忙なロレシオの心理的負担になるのは、エルゼにとっても本意ではない。
それでも、ロレシオの片思いの相手が部屋にいると思うと、エルゼの胸はぎゅうっと痛んだ。
(こんな嫉妬をするなんて、馬鹿げているわ。陛下の大事な方へのお気持ちを、ぽっと出のわたくしが変えることなんてできないのに)
ため息をつきつつ公務に戻ろうと立ち上がったその時、エルゼはとあることに気づいた。机の片隅に、書類が数枚置きっぱなしになっている。エルゼの渡した本もそのままだ。
「まあ、これって午後からの会議で使うんじゃなかったかしら」
どうやらロレシオは、何も持たずに帰ってしまったらしい。侍女を呼びつけてロレシオに届けさせようにも、近くに侍女たちの姿はない。
エルゼは慌てて立ち上がり、忘れ物を持って部屋を飛び出した。