過去の名君は仮初の王に暴かれる

最後の灯

「午後の会議に、間に合うといいけれど……」

 ロレシオの忘れ物を届けようと、国王の部屋に続く廊下を早足で歩いていたエルゼは、ふととある異変に気づいた。

(あら、王妃の部屋のドアが開いているわ……)

 国王の部屋の隣にある王妃の部屋の重厚な扉が、今日に限って少しだけ開いている。これまでは、固く閉ざされていたのに。

 そっと近づいてみると、部屋の中から足音がした。どうやら、誰かが部屋にいるらしい。

 いつものエルゼなら、見て見ぬふりができただろう。覗き見をするのははしたない行為だ。しかし、今日だけは魔が差してしまった。

『あの部屋は()()()()の部屋なんだ』

 先ほどロレシオに言われた言葉が脳裏に浮かぶ。

(少しだけなら、大丈夫よね。こっそり見るだけよ。陛下の大事な人が、どんな方なのか、わたくしだって知っておきたいもの……)

 細く開いたドアの隙間から、息を殺してエルゼは王妃の部屋を覗く。
< 14 / 51 >

この作品をシェア

pagetop