過去の名君は仮初の王に暴かれる
 彼にとってのイヴァンカは、王家の凋落を象徴する人物ではない。
 それどころか、世間で悪しざまに言われているイヴァンカこそ、腐敗しきったこの国に残る、最後の灯のような人だと幼い彼は気づいていた。

 イヴァンカはいつも民衆たちからの嘆願書に目を通し、心を痛めているとロレシオに語った。王族として生きている以上、国民の幸福を追求するのは義務であり、できる限りのことをしたいのだと。
 足しげく図書館に通っては知識を補い、殺人的な量の書類をひとりで黙々と目を通し、不正を質そうとするその姿が、悪い噂をする大人たちには都合よく見えていないようだった。

 王宮騎士見習いの期間を満了し、ロレシオは護衛騎士として地方に派遣されることとなった彼は、迷わずイヴァンカに騎士の誓いを立てた。
 地方で勲功を立てれば、王族付きの騎士に戻ることもできる。ロレシオは、いつか王妃付きの騎士となり、イヴァンカの名誉を挽回しようと無邪気に夢見ていた。
 しかし、その夢は叶わなかった。

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