過去の名君は仮初の王に暴かれる
 しかし、気付けばロレシオはエルゼに惹かれていた。かつて愛した王妃と同じ、何もかも見通してしまうような澄んだ宝石のような瞳が、ロレシオを見つめるたびに、彼の胸はかき乱された。

 凛としているのに、甘く心に響くあの声が。
 たおやかで折れそうなほど細い腰が。
 愛しい人と同じ、サファイアブルーの澄んだ瞳が。

 あの女のすべてが、ロレシオの決意を揺らがせる。
 宰相に勧められるがまま娶った物静かな女を、初めロレシオは心の底から憐れんでいた。二回りも年が上の男と結婚させられた彼女にとって、この結婚はさぞ不本意なものだったに違いない。
 それくらい分かっているのに、エルゼと一緒にいればいるほど、離れがたく思った。それどころか、時折あの細い頸筋に歯形をつけ、自分のものにしたいという気持ちに駆られることすらある。

 特に、あの憂いを湛えたサファイアブルーの目で見つめられると、ロレシオは居てもたっても居られない気持ちになる。

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