ワインとチーズとバレエと教授【番外編】

2



誠一郎は中学1年生になっていた。
そして無事、 
私立中学に合格していた。

今日は初めての遠足だ。

「誠一郎、ハンバーグだけじゃなく
ちゃんとニンジンも
ブロッコリーも食べるのよ」

母の百合子が、
お弁当箱と水筒を
渡してくれた。

「うん」

「好き嫌いしちゃだめよ
ちゃんと栄養を考えて
お母さん作ってるんだから」

「うん」

そういう母の言葉が
だんだん、
うるさくなってきた。

遠足は森のある美術館に行き
そこで写生会が行われた。

誠一郎は持ってきた絵の具で
一生懸命、筆を走らせていた。

暑かったので、水筒の麦茶は
あっという間に空になった。

そしてお昼時の時間がやってきた。

誠一郎は、お弁当箱を開けた。
母の栄養を考えたお弁当は
いつも色鮮やかだった。

案の定、誠一郎の苦手な
ニンジンとブロッコリーも入っている。
あとは、ミニトマトにハンバーグに
タコさんウインナーに
卵焼きに、キンピラごぼうに
おにぎり。
お弁当の定番だった。

隣にいた女子が

「藤崎君のお母さんって
お料理上手ね」

とお弁当を覗いてきた。

「…別に…」

誠一郎は母が料理が
上手なことは分かっていた。

でも、なんとなくそれを
素直に受け止める気には
なれなかった。

写生会が終わり
描ききれなかったものは
教室で書くことになった。

帰宅した誠一郎は
お弁当箱と水筒を
キッチンに置いた。

母がお弁当箱を見た。

「誠一郎、何でニンジンと
ブロッコリーを残してるの!」

「………」

「あれだけ、きちんと
食べなさいと言ったじゃない?
お母さんね、栄養を考えてるのよ?
これじゃ、父さんのように
なれないわよ」

また父さんか…

父さんのようになれ
父さんのようになれ

何かあると
二言目にはそれだ。

「母さんは俺が
父さんのようになってほしいの?
俺は俺のままで生きたらダメなの?」

「何言ってるの
屁理屈言わずに
きちっと食べなきゃダメでしょ!
残したものは、全部食べなさい!」

と母は、お弁当箱を
突き返してきたので
誠一郎は初めて
お弁当箱を振り上げて
キッチンの シンクに
バンっと投げつけた。

母親は驚いた顔した。

大人しい誠一郎が物を
投げるなんて
今まで一度もなかったからだ。

「なんてことするの!誠一郎!」

「母さんはずっと
父さんのそばで
父さんを眺めていればいい!
俺は父さんじゃない!
いい加減にしてよ!」

そういうと、誠一郎は
自分の部屋に戻って行った。

< 11 / 62 >

この作品をシェア

pagetop