ワインとチーズとバレエと教授【番外編】


亮二の手には10万円分の
札束がある。

「これで最後にしてくれよ」

「ちょっと、私、今
生活できないのよ」

「男に貢いでるだけだろ」

「あんたに関係ないじゃない
それに医者なんだから
金くらい、どうにでもなるでしょ?」

どうして女は、こう
金に執着するんだー

「 オレだって生活があるんだ
これ以上、渡せない、
一体いくら渡したと思ってるんだ!
というか、ちょっとは返せよ!」

「あんたに返せるぐらいだったら
私だってとっくに返してるわよ」

真理子姉さんが荒れ始めたのは
高校生ぐらいからだった。

亮二の両親は
うまくいっていなかった。

いわゆる
機能不全家族というやつだ。

が、なんとか取り繕ってきたが
父と母が離婚し
真理子姉さんは荒れた。

そしてチンピラみたいな男と
結婚し、利用され、貢がされ
さっさと男に捨てられた。

でも、救いだったのは
娘の理緒ちゃんが
無事に大学に行ったと聞いた。

真理子姉さんとは違って
バイオリンや  
フィギュアスケートを
習う高い教養意識を持っていた。

その活力は、一体どこから
出てくるのか…。

ふと、散らかっている
部屋を見ると、
白い足が床に横たわって
いるように見えた。

真理子姉さんは
さっと自分の体で
その光景を隠そうとした。

「あ、理緒は元気だから!」

そう言って、亮二から10万円を
ひったくると、

「来月も頼むわ!
家賃払ってなくて」

と、真理子は当然のように言い
10万の札束を数えだした。

「いい加減にしろよ!」

と言ったとき

「…う…」

という、少し苦しそうな
うめき声が聞こえた様に感じた。

真理子姉さんは、急いで

「ありがとうね!
今度お礼するから!」

と亮二を帰えそうとしたが
亮二、はなんとなく
異変に気づいた。

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