ワインとチーズとバレエと教授【番外編】


そんな秋のある日、
理緒はイタリアンでの
アルバイトをしていた
ときのことだった。

なぜか今日は、フラフラする。
疲れが溜まっているのだろうか?
と思ったが 、そのまま
ラストまで頑張り
その後はコールセンターの
会社に行かねばと思っていた。

お客様に

「ビールとマルゲリータ 1つ!」

と言われ

「かしこまりました」

と伝票にサインをし
厨房にオーダーを伝えに行くとき
理緒は突然、バタンと倒れた。

店長が急いで駆け寄り

「加納さん、大丈夫ですか?」

と理緒をゆすったが
理緒の意識は朦朧としていた。
客もざわついた。

「おい!誰か救急車を呼んでくれ!」

と店長の大きな声が聞こえた。
そこで、意識が途切れた。

理緒が目を覚ますと
点滴につながれ
どこかの病院の病室に
寝かされていた。

一体、ここはどこの
病院なんだろう…?

あれ…?
イタリアンでアルバイトを
していて…

今、何時だろう?
え、 朝?
大学に行かなきゃ…

点滴につながれながら
理緒が、ふらふら廊下を出ると
それを見つけた看護師さんが
駆け寄ってきて

「加納さん、大丈夫ですか?
歩いてはだめです、
病室に戻りましょうね」

と、いそいそと理緒を
ベッドに寝かせた。

「今、先生が来ますからね、
ちょっと待っててくださいね」

理緒はコクンと頷いた。

10分もしないうちに
医者が理緒の病室に入ってきた。

「加納理緒さんですね?」

「はい」

「生年月日は言えますか?」

と言われ

「1995年の12月2日です」

と伝えると

「加納さん、あなたは貧血と
栄養失調で倒れました
一体どれぐらい、
バイトをされていますか?
今、大学生ですよね?
身分証として、学生証を
拝見させていただきました」

医師の質問に答えず理緒は

「あの、今、何時でしょうか?」

「えっ?えっとですね、
朝の10時20分頃です」

「私、大学に行かないと!」

「ちょっ、ちょっと
待ってください!
えっとですね 、今親御さんに
来てもらおうと思ってまして…」

「母は来ません
入院費がかかると困ります
家に帰ります、
お騒がせ致しました」

と、理緒が、ベッドから
起き上がろうとすると

「ダメです!少し休まないと
また倒れますよ!
血液検査のデータが良くなくてですね
トータルプロテイン、つまり
タンパク質が基準値を大幅に
下回ってます、なので…」

理緒は急いで点滴のルートを外し
大学に行こうとした。

「ちょっと待ってください!
加納さん、落ち着いてください!」

とにかく医者が理緒を説得した。

その後、母親が渋々、病院に
印鑑を持ってやってきた。

そして理緒の病室に来て

「大丈夫よ、しばらく入院してても
あなたには、 たっぷり保険金を
かけていますからね
1泊入院したら3万出るわ
10日間だと30万」

その保険料を払っているのも
理緒だった。

「30万は大学の学費に
回したいから、
振り込まれたら私に渡してね」

「そんなことできない!
大学に行かなきゃいけないし
バイトもあるし…」

「仕方ないでしょ、
倒れたんだから
医者の言うこと聞いて休みな
あとこの保険の請求書の紙、
置いとくわね、主治医の先生に
書いてもらってちょうだい、じゃあ」

そう言って、母はさっさと
帰って行った。

その様子を見ていた看護師は
理緒を心配した。

「あの…大丈夫ですか?
お母さんはいつもああなの?」

と理緒に尋ねてきたが
理緒は笑顔で

「気になさらないでください」

そう返事をした。
その無理した笑顔に
看護師は戸惑った。
 
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