ワインとチーズとバレエと教授【番外編】

近所の内科は日曜なのに
混雑していた。
理緒は問診票に、3日前から
咳が止まらず熱が出ていると書いた。

医者に見てもらう前に
看護師にレントゲン室に案内され
肺のレントゲンを撮った5分後、
理緒は、30人の患者を差し置いて
誰よりも先に呼ばれた。

診察まで2時間は
かかると思っていた理緒は
予想以上に早く呼ばれて以外だった。

理緒は戸惑いながら
診察室のドアをコンコンと
ノックし

「失礼します」

とフラフラしながら
入室すると
初老の医師はすでに、
紹介状を急いで書いていた。

初老の医師は
理緒の顔も見ず

「加納さんですね?
これから大きな呼吸器内科がある
N 病院に行ってもらいます
タクシーで行ってください
公共交通機関に乗ってはいけません
N 病院は総合病院の中でも
呼吸器専門内科があります、
今、急いで連絡を取りましたが
加納さんの受け入れ態勢可能と
お返事が来ましたので、
すぐに来てくださいと仰ってくれました
ベッドがあいてて本当に良かった…
おそらく入院になると思いますが」

「…え?」

理緒は状況が飲み込めずにいた。
入院?

「たった3日で肺の7割が
水で漬かって心臓を圧迫
しているんです!
私が内科医をやってきて
こんなひどい症状は
初めて見ました、
苦しくなかったのですか?

水が肺を圧迫し、
横になれないはずです
とにかく急いでN病院に行ってください
N病院の救急外来入口で
タクシーを止めてもらってください
今、医者が待機しています」

初老の医師は急いで
紹介状を書いている。

何だろう…そんなに私は
重症なのだろうか?

「あの、こちらでお薬とか…」

と、理緒が喋るとゴホゴホ
咳き込んだ。

「いえ、ここで薬は渡しません
全てN 病院の指示に従ってください
あなたはまだ若い、
やりたいこともたくさんあるでしょ?
食べたいものもたくさんあるでしょう?
行きたい場所だってあるでしょ?
とにかく気をしっかり持ってね、
若いから大丈夫だから…」

初老の医者は、悲しげに
理緒を見つめだ。

そんなに私は重症なのかしら…?

「えっと…私、明日は
大学とアルバイトがあって…」

「いえ、 そんなこと
言ってる場合じゃありません!
とにかくタクシーですぐに
N 病院に行ってください!
これが紹介状です
レントゲンも入っていますからね
とにかく、あなたはまだ
若いんですから…」

初老の医師は理緒を同情的な目で見た。
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