ワインとチーズとバレエと教授【番外編】
【誠一郎】エピソード

1

その日は誠一郎の
私立小学の受験日だった。

「お腹が痛い」と言って
受験をサボる気はなかったが
誠一郎はその日、
本当にお腹が痛かった。

受験会場では、
母の百合子の方が
ヒヤヒヤした様子だった。

「予習はもう終わった?
昨日はちゃんと寝れた?」

「…うん」

「誠一郎なら大丈夫よ
お母さん、信じてるわね」

「…うん…」

そんなことを言っている母に
誠一郎は、なかなか
お腹が痛いことを
言い出せなかったが
痛みがひどくなってきたので
誠一郎は

「…あのね、お母さん、
お腹が痛いんだけど…」

と、ようやく母に告げた。

「トイレに行った?」

「そうじゃなくて
ここが痛いんだけど…」

誠一郎は、お腹を指で指した。

「誠一郎、受験が嫌だからって
そういう言い訳はしちゃいけないの
お父さんだって、
言い訳したことないでしょ?」

「お母さん、言い訳じゃなくて…」

受験の時間が近づいてきた。

「誠一郎、そんなこと言ってないで
教室に入りなさい
お母さんここで待ってるから
頑張ってね!」

「…うん…」

誠一郎は母に背中を押され、
指定された教室に入りテストを受けた。

テスト内容は、いつも
誠一郎が受験対策として
やっているものだった。
いつもの 誠一郎だったら
簡単に解ける問題ばかりだった。

ただ、お腹が痛いー

誠一郎は鉛筆を置いて
お腹を丸めた。

どうしよう…
席を立ったら、
もう教室に入れないと
さっき先生に説明された。

頑張らなきゃ
頑張らなきゃ
頑張らなきゃ…

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