妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 オデルに連れられてシルディアがテーブルについてから十分が経っただろうか。
 ワゴンを引いたオデルが申し訳なさそうに眉を下げる。

「だいぶ寝坊しちゃったから、いつもみたいに品数なくてごめんね」
「? それは構わないのだけど……」

 テーブルに並べられたのはサンドイッチだ。
 卵が挟まったものもあれば、肉と野菜が挟まったものもある。さらに白いホイップと苺が挟まったものまで用意されていた。
 いつものように隣に座ったオデルと一緒に手を合わせ、神に祈りを捧げる。

「ずっと気になっていたのだけど」
「うん?」
「どうしてオデルが自ら厨房に入るの? 料理人と侍女がいるなら、食事を持って来るのは侍女であるヴィーニャの役割だと思うわ」
「ヴィーニャはあくまでもシルディアのお世話係だよ。それに、厨房に料理人はいないよ?」
「え? ならどうして食事が? ……まさか」
「そのまさかだよ。俺が作っているよ」
「なぜ皇王自ら料理を……おかしいでしょ」
「なにもおかしくはないよ。合理的な判断だ」
「? どういう……?」

 オデルがサンドイッチを食んだと同時に、トマトから汁が滴る。
 滴った汁は皿に落ち、赤色の水たまりを作った。

「俺が作れば、毒見役が死ななくてすむ」
「!」
「もううんざりなんだよ。誰かが死ぬのは」

 そう言ったオデルは実に寂しそうな笑いを浮かべていた。
 常に狙われる立場である彼の気持ちは、痛いほど分かる。
 シルディアは妖精姫の影武者として生きてきた。それはなぜか。
 妖精姫という存在は常に死と隣り合わせだからだ。

(毒を飲めばただの人は死んでしまう。そのリスクを少しでも減らすためにわたしの存在は隠された。すべてはフロージェを守るために。なら、オデルは? 皇族、しかも竜の王となることが決まっている皇太子なんて、いい的だわ)

 妖精姫であり、双子の妹でもあるフロージェを守るため、シルディアの存在は秘匿された。
 入れ替わったとしても片方がいないという事態がないように。
 しかし、この方法は双子だからできる技である。
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