妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 攻撃手段に使われたそれが窓際の床に当たり中身が散らばった音が響く。
 化粧箱が通った空間の白煙が薄くなっている。
 襲撃者二人はまだそれに気が付いていない。

(わたしに逃げ道を作ってくれたのね。わたしが逃げればヴィーニャは一人で退避すればいい。この体調でどこまで素早く動けるかが問題ね)

 思考は回るものの、いまだに視界は歪んでいる上に吐き気は収まっていない。
 襲撃者にバレないようゆっくり足裏に力を込める。

(そもそもこの白煙を吸い込んだ時から、めまいと吐き気がしたのだから……この白煙がない所に出れば勝機はある!)

 そろりとできる限り白煙を揺らがさないよう動く。
 吐き気をこらえながら忍び足で開け放たれた窓際へ歩みを進める。
 化粧箱から散らばった化粧品が道しるべとなっていて、辿りやすい。
 ふらふらと酒に酔った人のような足取りでシルディアは進む。
 やっとの思いでバルコニーまで辿り着き、出られた! と窓枠に手をかけた、その時。

 ぬるりとバルコニーの影から灰色のローブが姿を現した。
 驚き視線を上げるが、フードを目深にかぶっているため顔がよく見えない。
 シルディアが認識できたのはそれだけで、喉からかひゅっと息の詰まる音が鳴る。
 ぐわんと視界が回り、いつの間にかシルディアは冷たい床に叩きつけられていた。

(こ、れは、いけない……意識が……)
「ちょっと。ちゃんと捕らえてください」
「無茶言わないでくださいよぉ。俺、なんかバカ強ぇ侍女の相手してたんっすよ? そもそも予定では挟み撃ちするって言ってたじゃないっすか」
「それがその侍女ですか?」
「はい! ここに転がすより連れて行った方がより安全っしょ」
「違いないですね」
(ヴィー、ニャ……。オデ、ル……)

 遠のく意識の中で、襲撃者達の会話を聞きながらせめてもと手近にあった物を握りしめた。
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