シリウスをさがして…

うさぎの気持ちはこんな感じ

 いつからだろう。


 そばにいて 心がホッとして
 会話ができるようになったのは


 今は何だか家族のように

 一緒に 同じ部屋で過ごしている。

 学校とは違う感覚。

 授業を受ける教室でもない。

 本を読む図書室でもない。

 クラスメイトや友達もいない。

 
 自然に隣にいるのは 
 ご飯を食べ終わって
 ソファの上で
 まったりしている
 自然体の陸斗だ。


 沈黙が流れていても苦しくない。

 いつもより長く一緒にいる時間で
 
 手だけはしっかり指をからめて
 繋いでいた。

 体温がわかる。

 骨骨していて、大きい手。

 お互いの右手を重ね合わせると、自分の手が一回りくらい小さい。

 「紬、顎にほくろあるんだね。」

 顔が近づけてのぞいてきた。
 紬も陸斗のほくろを探そうと
 顔をのぞく。

「鼻の横に小さくあるね。」

「うん。じっと見ないと分からないよね。普段、自分でも鏡近くで見ないから。髭剃る時くらいだし。」

「女子は化粧するから見るよ!急いでいる時はそこまでゆっくり見れないけど。」

「すっぴんのままでも可愛いっしょ。」

「え、いつ見たの?」

「この間、紬の家に行って、パジャマ姿だった時…。」


「あ、あの時は何も化粧してなかった。見られてた。」


「まあまぁ。気にしない気にしない。俺だけが知る紬のすっぴんだね。あ、そろそろお風呂入らないと、ほら入っておいで。俺、洗い物するから。タオルとか自由に使っていいから。」

 普段生活するいつも通りの流れで陸斗は洗い物をしようとする。紬は先にお風呂に入るのは申し訳なく感じた。

 陸斗はワイシャツの袖を腕まくりした。

「私も洗い物するよ。ふきんで拭くから。」

「紬はお客様だから良いよ。気にしないで先にお風呂入ってて、それとも一緒にお風呂入るの?」

「それはちょっと恥ずかしい。」

「だよね。そうだな。んじゃ、お皿を拭くのだけお願いするよ。」

 手慣れた手つきでテキパキ食器を洗っていく。
 
 大越家の決まりで料理を作ったのが父ならば、片付けは陸斗と悠灯はするという流れができていた。

 毎日の流れのため、苦ではないようだ。


ーーー

 同じ時間の父さとしはというと

「ねぇ、相手してよー。」

 とあるビジネスホテルの中にさとしと紗栄はいた。

「何言ってんの。今仕事中。今日中に資料まとめなきゃないの。」

 紗栄はテーブルでパソコン画面を睨んでいた。
 

 テレビでコメンテーターの他に企画を考える仕事を請け負っていた。


 今後の議題決めて、パネラーを集めて会議する番組の企画担当だった。
 

 椅子に座る紗栄の後ろに周り、肩に腕を回してぎゅーとくっついていたのはさとしだった。


「何しに来てんのよ。さとしの仕事は家でもまぁ、ここでもできるけど。わざわざここに来る理由は何よ!? 忙しいのに。」


「そんなこと言わないでよ~。たまには良いじゃん。紗栄に虫がついたら行けないから見張りに来たの。だってさ、ここ1ヶ月ずっと東京でしょう?」


「何、虫って…どういうこと?」


「変な男とかにひっかかってないかなとか…襲われてないかなとか。」


「大丈夫、さとしじゃないから。それより陸斗と悠灯は置いてきて大丈夫だったの?」

 グサっと傷ついたさとしは泣きそうになった。まだ浮気するんじゃないかというレッテルが貼られていた。


「悠灯は友達3人と一緒にパジャマパーティするって言ってて、近所の友紀ちゃん家に行くって言っててさ。この際だから俺もこっち来て陸斗だけ残そうと思ってたの。」


「なんで、1人? まぁ高校生だから平気だと思うけど。」


「紬ちゃんと付き合って、1回も何もしてないって言うから場所と時間作ってあげようと思って…。大事なブツも置いてきたし。」

「は? なんでそんなことするの?健全な男子高校生を親が率先して行動してどうするんのよ。普通しないでしょう。恥ずかしいじゃない、陸斗が。」

「俺ができなかったこと、学生時代満喫してほしいって思うわけ。紗栄が交際してないとか言うから俺はずっと手を出せなかったし。」


「私、交際してないとか言ってないよ!」


「え?…え?!」


「焦ったいと思ってた…そしてなんでさとしじゃない人としなくちゃいけないのって自問自答してたし…でもあの人とさとしを重ね合わせるとさとしを嫌いになりそうで嫌だった。気づいて欲しかったけど言えなかっただけ。あの頃に戻れるなら、普通の恋愛したかった。」

「そんなこと言うなよ。今いるじゃん。ここに。過去の嫌なことは忘れよう。」

 さとしは紗栄の隣に座ってぎゅっと抱きしめた。頬に口づけた。


「だーかーらー、私は今から仕事だってば。」
 

 手で頬を退けた。


「いいじゃん。久しぶりに会うんだから。」


「そっちだって仕事あるでしょう。ほら、スマホ鳴っているよ。」


「え、ちょっと待って。んじゃ陸斗に紬ちゃん泊まらせていいよって言ったの?大丈夫かな。紬ちゃん、嫌な想いしなきゃいいけど。」

「大丈夫だって。俺の息子だよ?」


「あなたの息子だから心配なのよ!!」


「デリケートな話だし、放っておこうよ。俺らが親にあーだこーだ言われたら嫌でしょう。」

「まぁ、確かに…。そしたら、帰ったらお赤飯だね!」

「ばか、女子の初潮じゃないんだからいらないよ。恥ずかしすぎるでしょう。スルーでいいんだよ。」


「あんなに小さかった陸斗が成長したのね。」

「いつの話だよ。いつと比べるんだよ。紗栄はお花畑だな。」


「うるさいなぁ。いつも1人でスムーズに仕事できるのに、なんでいるんだか…。」

 お互いに少しイライラしながら、それぞれ別々なテーブルでノートパソコンを広げ、スマホの着信を確認して仕事モードに入った。


 父のさとしは、東京に出張って訳でなくて、ただ単に嫁の紗栄に会いたかったていうのと、息子の陸斗に紬との時間を作って欲しかった想いがあったらしい。



 五十嵐先生が顧問である剣道の部活が休みになることを知っていて、多分、陸斗と紬が家に来るのかなと予測していた。

 案の定、予想は的中していた。


ーーー


「それで、どうするの?」

「ここで待っててほしい。見ないでね。」

「えー。のぞくよ?」

「だめ。」

 初めて訪問した陸斗の家で紬がお風呂に入ろうとするが、1人で入るのは嫌だけど、見られるも恥ずかしくて嫌と言う。

 冗談でのぞくと言う陸斗。
 のぞく気なんかさらさら無い。


 でも、脱衣所にも入っては行けない。
 廊下で待つ意味が分からない。

 紬が話しているのを遠くから返事する。

 静かになったところで悠灯の部屋に入り、紬が着られそうな服を漁ろうとしたら、ご丁寧に悠灯のベッドの上にパジャマがたたんで置いてあった。



 付箋に『陸兄へ いざとなればこの服を使ってもよろしい。妹命令です。』


「何それ。親子して、どんな作戦!? 2人とも分かってて帰ってこないの?もしや…。」


 悠灯の部屋に監視カメラが無いか確かめた。 

 どこにもそんなものは無い。

 小柄な紬はちょうど悠灯と同じ服のサイズだった。

 女子の服があってよかったとホッとした。

 紬に自分のワイシャツを着てもらうのもありだったけどもと頭の中で想像すると鼻血が出そうになる。

 ワイシャツで下は何も履かないってちょっと風邪を引きそうな格好だ。

 でも男子たるもの、その格好にそそられないのはいかがなものかと思いながら、自分で自分の頭を後ろからチョップした。

 変な想像するのはやめよう。


 リビングに戻り、部屋の片付けをしていた。テレビをつけて、月極有料チャンネルの画面を開き、何か一緒に見れる映画が無いかと探し始めた。

「ちょっとぉ、なんでいないの?」


 陸斗が脱衣所のそばにいないことがわかると、体を洗い終えて、びしょ濡れのままタオルを体にさらりっと巻いて、こちらの様子を見ている。

「なんで、リビングに行っているの?」

「え、何か見たい映画無いかなって探してた。」

「1人にしないでよ。」

「え、だって紬、入ってこないでって言うじゃん。今だって裸だよ?いいの?」

 目線をそらして見ないように後ろを向く。

「あっ…。キャー。」

 紬は慌ててお風呂の湯船に入りに行く。

 タオルでかろうじて突起している部分は隠れていたけれど、白く透き通った細長い足と、ほんわかでぷっくりした胸が腕の脇から見え隠れしていたのを見てないふりして、見てしまった。

 ソファに座ってテーブルにあったティッシュケースを寄せた。

 鼻穴にティッシュをつめるのが多くなった。

 花粉症の症状が今出てきたのか。
 興奮して出てきたのかは分からない。

 鼻血が止まらなくなった。

 今の季節は確かイネやブタクサの花粉…。

 恥ずかしくなった紬は湯船の中にぶくぶくと目の下あたりまで潜った。


「紬~、のぼせちゃうから上がるんだよ?リビングで待ってるから、ここに着替え置いておくから。」


 まるでお母さんのように陸斗は脱衣所に着替えを置いてリビングに行った。


 鼻にはまだ丸くしたティッシュを詰めていた。血の気が多いようだ。

 お風呂から上がり、バスタオルで拭くと、ありがたくパジャマを着させてもらった。

 近くにあったフェイスタオルで髪を拭いた。

 ドライヤーが近くにないことがわかると、陸斗のいるリビングに行った。


「ドライヤーってどこにある?借りられるかな。」


「おいで!乾かしてあげるから。」


 ソファの近くにコンセントがあったらしく、乾かすのを楽しみにしていたのかニコニコしていた。

「え、いいの?お願いします。」

 紬はカーペットに座り、陸斗はソファに座って、紬の髪にドライヤーを当てた。


 小さい頃、父の遼平にドライヤーで乾かしてもらった記憶がある。

 陸斗が父に見えてくる。

 ワシャワシャとイヌを撫でるかのようにしたかと思うと、ブラシを使って丁寧にブローをしていく。

 まるで美容師のようだった。


「陸斗先輩はなんでも出来るね。」


「ある程度、知ってるってだけだよ。…その、学校じゃない時くらい、名前で呼んでよ。」

「えー、でも年上だし。」

「怒らないから。」

「…り、陸羽東線…。」

「なんで電車の路線?しかも廃線になりそうなやつ…。」

「むむむ…。」

「ムササビ?」

「び、ビー玉。」

「マントヒヒ。」

「ひ、ひ…干物。」

「海苔!」

「り、り、り…く…と。」

「てか、しりとりしないと俺の名前言えない病気か何か?」

「違うもん。恥ずかしいだけだもん。」

 髪を乾かし終えると、近くにあったクッションをギュッと抱えて目を強くつぶった。

「慣れるまでに時間がかかるのね。わかりました。今からお風呂入ってくるわ。何か好きな映画でも見ててよ。」

 陸斗はドライヤーをまとめて、テーブルにあったリモコンを渡す。

「え…。1人で見てるの?」

「え?だって、一緒に風呂入るの嫌なんでしょ? どうしろと?」

「近くで待ってる。」

「…どんだけ寂しがり屋? 俺、はずいんだけど。」

「んじゃ、陸斗がやってたみたいに廊下で待ってるから。」

(平然と名前で言ってるし…。)

「紬がそれで良いなら良いけど…。」

 待ってる際に座れるように椅子代わりの踏み台を陸斗は物置から持ってきた。

「これに座って待ってて。」

「うん。スマホ見て、待ってる。」

 何だか複雑な気持ちになった陸斗はとりあえず脱衣所のドアを閉めて、お風呂に入るため、上の服を脱いだ。

「あ、待って。スマホの充電無くなっているから、モバイルバッテリー持ってくる!…あ。わぁ!ごめんなさい。」

 なぜか上のシャツを全部脱いだ瞬間にドアを開けられた。
 下のズボンはまだ履いている。
 
 チラッと見えたのは6つに割れたお腹の筋肉。程よくついた上腕二頭筋。
 意外に鍛えてた陸斗にドキッとした紬。
 
「ちょ、ちょっとぉ、見ないでよー。」

 ドアの向こうでオネエのような口調で言う。そのやりとりが面白かった。

 慌てて、紬はドアを閉めて、リビングにあるバックからモバイルバッテリーを持ってきて、脱衣所の前の廊下に戻ってきた。

 シャワーの音が響く。一緒にはいないけど、何だか安心した。


***

 洗面所で髪を乾かしている陸斗は隣に移動した紬に話しかける。

「眠くない?」

「うん。まだ平気。」

 ゴーというドライヤーの音が止まると、背中をポンと触れる。

「ほら、あっち行こう。」

「うん。」

 黒のズボンとグレーのシャツに着替えた陸斗を見て、ドキドキした。制服じゃない私服が見られるだけで嬉しかった。
どんな姿も何だか新鮮だった。

「映画見ようかと思ったけど、もう0時すぎてたね。もう寝る?」

「うん。」

眠い目をこすって紬は陸斗のシャツをつかむ。

 陸斗は自分の部屋を案内して寝床を整えた。

「はい。綺麗にしといたから寝ていいよ。」

 言われたまんま、布団の中に入る紬。陸斗は、リビングに移動してソファで寝ようとした。

 おばけのように布団をくるりと体に巻き付けて、後ろをついてきた紬。

「ん?どした。」

 ソファに薄い毛布をかけて寝ようと思っていた陸斗はすぐに体を起こした。

「やだ。1人で眠れない。」

「んー。眠れないって言われてもなぁ…。」

 頭をぽりぽりかく。

 紬は布団をかぶったまま、左手で陸斗のシャツを引っ張る。

「…隣で何もしないって無理なんだけどそれでも良いの?」

 頬をほんのり赤くして、布団に体を包ませながら目だけ出して頷いた。

 そう言いながらも、おばけな紬は布団をかぶって陸斗の部屋に恥ずかしそうにタタタと小走りで戻っていく。

(本当に大丈夫かな…。)
 
 心配になりながら、玄関の施錠をして、リビングの電気を消して、スマホを持って、自分の部屋に入った。

 テントのようにモコモコに膨れた布団の中に陸斗は入ろうとする。
 
 スマホのライトで中がぼんやり光っていた。
 
 部屋のライトを消すと余計目立っていた。

「何してるの?」

「こうやって布団の中照らすと、小さなプラネタリウムみたいでしょう?」

「そ、そうかな。」

 少しでも面白く考えた紬の最善の考えだった。

 陸斗は、そっと紬の隣に寝転んだ。一緒に布団の中を観察した。

 ライトをつけているけども、星空観察には物足りなさを感じた。

 横に体の向きを変えて、紬の横顔をずっと見つめた。

 見られているのはわかっていたが、恥ずかしくなって反対の方に体を向き直した。

 嬉しいのに相反することをしてしまう。

 さらに紬の向く方向へ移動して、体を向きあわせた。

「紬の髪、いいにおいするね。」

 額あたりに鼻を寄せた。

 シトラスの香りが広がる。
 
 鼻と鼻を近づけて、そっと紬の唇に優しくキスをした。

 一度離れると顎をくいっと持ち上げて、ディープなキスをする。

 何か別な世界が変わったように背中に天使の羽根ができたような高揚感に包まれた。

 キスだけでこんなに愛しく、熱が上がるとは思わなかった。

 布団の中に潜り込んでいるためか尚更熱さが感じられた。

 首筋から鎖骨へ愛撫する。

 深呼吸して呼吸を整える。
 興奮が冷めやまない。

 気持ちよさそうな顔をしているのを見て、嬉しくなる。

 温かく丁寧で安心して委ねられた。

 臆病になって傷つけるかもしれないと先に進めないことが多かった。

 紬も温かく優しく受け入れてくれた。

 2人は幸せの絶頂を確かめ合った。


 もちろん、準備してくれていたアレを忘れず装着していた。

 つける際は手がプルプルと震えて尋常じゃない汗が出たのは今だけであってほしい。
  
 練習しておけばよかったかなと後悔した。
 
 無事に事を済ますことができた。
 
 紬は陸斗の右腕枕ですやすやと眠っていた。

 天使のようにそれはとても愛しい姿だった。

 
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