ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 心の中では文句を言いつつ、彼の心臓は痛いほどに脈打っていた。こうやって再び彼女を抱きしめたいとこの数週間ずっと願っていたのだ。望みは思わぬかたちであっさり叶ってしまった。
 いつもの彼であれば、寝ている隙に無断で誰かがベッドの中に入ったと知れば、烈火のごとく怒っただろう。しかし、聖女エミに対しては不思議と怒りはわかなかった。

 ディルは、ドギマギしながらおそるおそる胸のなかのエミを見つめる。
 エミの眼のふちはまだ涙のあとが残っているものの、寝顔はすこぶる穏やかだ。よく眠っている。
 
(今まで気づかなかったが、眼のふちに小さなホクロがあるのだな。それから、耳の後ろにも……。ああ、眺めているだけでは物足りない……。いつもは恥ずかしくてできないが、キスくらいしても罰はあたるまい……)

 ディルはおそるおそるエミの髪の生え際にキスを落とす。そのまま、耳朶や頬もその唇で堪能した。
 どこもかしこも柔らかいエミの身体はすこぶる抱き心地がよかった。節くれだった男の身体とは大違いだ。滑らかな髪に頬を寄せると、清潔なシャボンの匂いがディルの鼻腔をくすぐる。
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