ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 ディルの葛藤はつゆ知らず、エミはうーんと寝返りを打った。はずみでエミの白い胸元がはだける。ディルはあさっての方向を見ながら、エミにそっとブランケットをかけてやった。暴走しそうな欲求は、鉄壁の理性でなんとか抑えつける。

「当初の目的を果たさねばなるまい……」

 ディルは自分に言い聞かせるようにつぶやくと、かねてから用意していた細い糸をポケットからごそごそと取り出し、エミの左手の薬指に巻き付け、サイズを測った。ミッション完了だ。

「よし、この大きさで、指輪を頼めばいいんだな……。月給の2.5ケ月分の婚約指輪を……」

 満足げにそうつぶやいて、ディルは小さくガッツポーズをした。確実にプロポーズまでのミッションはこなしている。執事のセバスチャンはプロポーズが失敗するとかなんとかで心配していたが、ディルはプロポーズという一大イベントを失敗する気は一切ない。
 ミッションを一つ完了したディルは、抜き足差し足でエミの部屋を去って行く。朝までエミと一緒にいたい気持ちもあるが、生憎朝の会議の資料が終わっていない。

(ふむ、今日も仕事は山ほどあるが、不思議と足取りは軽いな……)

 誰もいない廊下を、ディルはゆったりとした足取りで歩いていく。
 部屋に残された何も知らないエミは、いまだにすやすやとのんきな寝息をたてていた。
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