成長した年下王子は逃げたい年上妻を陥落させる

領主の帰還

◆◇

「コルネリア様、そろそろ中へお入りになってください。夕風で身体を冷やしてしまっては大変ですよ」

 バルコニーでぼんやりしていたコルネリアに、メイドのサーシャが気づかわしげに声をかけた。
 コルネリアは軽く頷いて部屋の中に入る。

「お坊ちゃまがお帰りになるのですから、このままではいけませんわ」

 サーシャはコルネリアを椅子に座らせた。コルネリアの細い髪は、夕風ですっかり乱れてしまっている。
 しかし、コルネリアはゆっくりと首を振った、

「良いわよ。リシャールも年増の妻の恰好なんて気にしないわ。見苦しくない程度に結い上げてちょうだい。服は……いつものものを」
「もう! こういう時に、着飾らないなんてもったいないですよ。コルネリア様は本当に美しい方なのに!」

 サーシャの言葉に、コルネリアはただ困ったような微笑みを浮かべた。

「……今日はリシャールが主役よ。わたくしが着飾ったって、仕方ないもの。わたくしは仮初(かりそめ)の妻に過ぎないし」
「そんなことを言わないでください! リシャール様が不在の間、この国を支えてくださったのは他でもない、コルネリア様なんですから! もっと胸を張って偉そうにしたって誰も文句は言えませんよ。もし文句を言う不届き者がいたら、わたしが許しません!」
「うふふ、ありがとうサーシャ」

 コルネリアがこの国に来て、もうすぐ6年の月日が経とうとしている。
 当初はコルネリアに冷たかったこの城の人々も、辛抱強く対話を続けることで、今ではコルネリアに尊敬の念をもって接するようになった。コルネリア付きのメイドのサーシャは特にコルネリアに懐いてくれている。
< 5 / 30 >

この作品をシェア

pagetop