成長した年下王子は逃げたい年上妻を陥落させる
 サーシャはコルネリアの緩く波打った亜麻色の髪をハーフアップに結い上げつつ、おしゃべりを続ける。

「それにしても、やっとお坊ちゃまが帰ってきますね! コルネリア様もさぞ嬉しいでしょう。お坊ちゃまがピエムスタに遊学される前は、お二人はいつも姉弟のように一緒でしたから」
「そうだったわね。懐かしいわ。最初は、リシャールに好かれたくて、ピエムスタから持ってきたお菓子をあげたりしていたわ。そのうちに心を開いてくれて……、あの時は嬉しかった」

 コルネリアは懐かしそうに目を細める。

 リシャールが攻撃的だったのは一時期だけだった。物腰穏やかで愛情深いコルネリアに、リシャールはすぐに懐柔されてしまったのだ。それに、コルネリアは年の離れた夫のリシャールに最初からメロメロだった。――もちろん、恋愛的な感情は一切なく、弟をかわいがるような感覚で。

 なんせ、リシャールはコルネリアが幼いときに愛読した物語にでてくるエルフのような美しい面差しをしていたのだ。
 癖のないプラチナブロンドはつややかで、肌は透き通るように白い。唇は紅を塗ったように可愛らしいアプリコット色。大きなアイスブルーの瞳は見る人を惹きつけて離さない。さすが、エツスタン王族がエルフの末裔と呼ばれるだけある。

 一方、尊敬する両親を失って暗い顔をしていたリシャールも、コルネリアがエツスタンに来てからというもの、徐々に笑顔を見せるようになった。
 ふたりは一日の大半を一緒に過ごしていたため、「まったくおふたりは、仲睦まじい夫婦ですね」と城の人々によく揶揄われたものだ。最初は冷たかった城で働く人々も、リシャールに笑顔をもたらしたコルネリアに深く感謝し、態度を改めたのである。
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