スイート×トキシック

(こんなのも、初めてだよ……)

 颯真に近づく“邪魔者”を消すのは、俺の使命だと思っていた。

 彼のためなら何でも出来る。
 罪を犯すのは、彼への愛情を確認するための行為でもあった。

 どんな悪いことでも、人殺しでさえも、平然とやってこられた。
 それは颯真への愛があってこそ。

 後悔はなかった。
 繰り返すたびに安心した。

 颯真のためにここまで出来る、ああ、俺はちゃんと彼を愛しているんだ……って。

 殺してしまえばもう、相手を思い出すことなんてほとんどなかった。

「なのにさ、何で────」

 ぎゅう、と手に残る感触を必死で握り潰す。
 かぶりを振った。

(……恋なわけないじゃん。馬鹿なの、俺?)

 もしそうだったら、颯真への愛が偽物だったと、生半可(なまはんか)な覚悟しかなかったと認めることになる気がする。

 これまでにやってきたことすべてを否定することになる。

 無意味なものにしてしまう。

 芽依は颯真を困らせた元凶。颯真に近づいた“邪魔者”。
 俺が許すはずない。
 ましてや好きになるわけもない。



*



 あれからもう、ひと月近く経った。
 新しい生活(、、、、、)が始まろうとしている。

 俺はコンビニに寄って、食べものを選んでいた。

(あー、また……)

 ちらついた記憶に嫌気がさす。

 どこにいても、何をしていても、未だに芽依との思い出が俺の足を止める。



『ちょっとだけ、一緒に外出ない?』

 そんなふうに連れ出して、コンビニへ行ったりなんかして。
 普段の俺なら考えられない行動だ。

 どうかしていたかもしれないけれど、後悔はしていない。

『俺も君も逃げられない。それとも、このまま警察でも行く?』

 あのときだけは確かに本気で、もうすべてを終わらせてしまってもいいような気になっていたのかもしれない。
 終わらせられるなら、もう────。

 違う、とかぶりを振る。

 芽依が逃げないことは分かっていたんだ。通報されない確信があった。
 あの段階まで来て、俺を裏切れるわけがないんだから。

「…………」

 息をつく。

 集中しないと。
 芽依の時間は俺が止めたが、俺の時間はまた新たに動き出している。

 悔いたって戻らない。
 颯真のためにしたことに、後悔なんてあるわけもないけれど。

 これからも俺は颯真のために、彼への愛に生きるのだ。
 彼がいなかったら今の自分はきっとないのだから。

 彼のことだけは裏切れない。

 失敗するわけにはいかない。
 捕まるわけにはいかない。
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